運送事業許可取り消しへ…日本郵便、不適切点呼が横行した背景

「日本郵便が点呼業務を実施しないまま貨物運送事業を行っていたことは、輸送の安全の確保を揺るがしかねないもので、極めて遺憾。今後、国土交通省で必要な行政手続法上の手続きを適切に進めていく」

 6月5日、不快感をあらわに、こう述べた林芳正官房長官。全国に3188ある郵便局で配達員に対する飲酒有無についての内部調査が行われ、なんと全体の75%にあたる2391か所で確認点呼が適切に行われていなかったことが発覚したのは、今年4月のこと。この問題を重く見た国土交通省は、貨物自動車運送事業法に基づき監査を進めてきたが、そこでも虚偽記録を作成するなどの違反行為が数多く確認されたことで、同日、国交省は同社に運送事業許可取り消し処分を行う旨を通知。6月18日、最終的に会社側の意見を聞く「聴聞」を開いたうえで、日本郵便に対し、正式な処分が下されることになった。

「貨物自動車運送事業法では、運送業務を行う事業者には乗務の前後に点呼を実施ことが義務づけられており、内部調査での問題発覚で点呼の徹底が通達され、再発防止が急務になっていたわけです。ところがそんな矢先、社員らによる出勤時や業務中の飲酒運転が微量も含め全国で20件も明らかになった。しかも、東京の芝郵便局では乗務前点呼でアルコール検知があったにもかかわらず、点呼担当者が車の鍵を渡し、飲酒運転を発生させるという事案まで判明。これらが異例ともいえる今回の最も重い処分につながったとみられています」(全国紙記者)

 言うまでもなく日本郵便は国から運送事業の許可を受け、トラックやバンタイプの車両を配送に使用しているが、その数はおおよそ2500台。これが動かせなくなった場合、ゆうパックなどの配送に多大な影響が出ることは必至だ。

「行政処分により許可が取り消された場合、5年間は許可の再取得ができなくなります。今回、処分対象となるのは、郵便局が運送事業の許可を受け使用しているトラックやバンタイプの車両で、約3万2000台あるとされる同社の軽バンは届け出制なので、いまのところ今回の処分からは対象外になっています。ただ、国交省は郵便局ごとの車両停止処分を検討していると伝えられ、この先どうなるか。現状、全国で約8万3000台と言われる配達用原付きバイクは、貨物自動車運送事業法の対象外なので、おそらくはこちらの稼働が増えるはずですが、バイクなので運べる荷物は限られている。いずれせよ、違法行為のツケはあまりにも大きかったということです」(同)

 周知のように郵便局はもともと郵政省が郵便、郵便貯金、簡易生命保険の3事業を管轄していたうちのひとつだが、小泉純一郎首相(当時)が掲げた郵政民営化改革により、05年10月に郵政民営化法が成立。07年には日本郵政と郵便事業、郵便局、ゆうちょ銀行、さらに、かんぽ生命保険5社による日本郵政グループが発足することになった。

 ところが、「親方日の丸」から「民間」へとなれば、当然、利益の追求が至上命題となる。

「結果、各郵便局が民間経営のノウハウを取り入れはじめ、『無理・無駄・むら』を排除するシステムが構築さえ、社員には徹底した時間管理や、過重なノルマがかかり、社員一人一人のプレッシャーも一気に急増したと言われています」(同)

 だからといって、ストレスを和らげたい、と勤務中酒を飲んでいいはずはないが、郵便局関係者から、「過重労働による弊害が様々なところに出てきている」といった証言が少なからず出ているのも事実だ。貧すれば鈍する。郵便事業とはいったいなんなのか。日本郵便にはもう一度原点に立ち戻り、立て直しを図ってもらいたいと願うばかりだ。

(灯倫太郎)

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