ロシアのプーチン大統領の次期大統領就任を伝える報道から、わずか数日後の3月22日。モスクワ郊外のクラスノゴルスクにあるコンサートホールで起きた武装集団による銃乱射事件。当日は約6200席がほぼ満席で、当局の発表によれば死傷者は130人以上となった。
事件後、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)がSNSを通じ犯行声明を出したが、25日、地元メディが拘束、起訴された容疑者4人全員が中央アジアの旧ソ連構成国・タジキスタン出身であることを報じた。イスラム国について詳しいジャーナリストの話。
「イスラム国は2014年末にアフガニスタン東部に出現し、その残虐さで世界に名を轟かせましたが、一時はアフガンに駐留する米軍の追撃やタリバン政権により勢力が弱体化した。ところが、2021年の米国によるアフガン完全撤退から、完全に息を吹き返してしまった。すると今度は、米国と対立関係にあるイランやシリアへの本格的軍事介入をきっかけに、『テロとの戦い』を掲げるロシアがイスラム国を標的にするようになった。特にロシアの抗戦は徹底したもので、結果、そういった遺恨がロシアを標的とする動機となったのではないかとみられています」
加えて、イスラム国メンバーのなかには中央アジア出身の過激派も多く、ロシアに対し歴史的憎しみを持つものも少なくない。ロシアでのテロ実行にはそんな背景があるとされている。
「02年にもチェチェン共和国の独立闘争に関連し、130人の人質が死亡したモスクワ劇場占拠事件や、04年の北オセチア共和国ベスランでの学校占拠事件があり、この時には児童を含む300人以上が死亡しています。以降も11年にはモスクワ近郊の空港での自爆テロ事件では30人以上が死亡。また17年のサンクトペテルブルクでの地下鉄自爆テロ事件でも14人が犠牲になりました。そこで、プーチン氏はテロ対策をこれまでになく強化する体制をとった。結果、近年は大規模テロが鳴りを潜めていた矢先、さらには次期大統領が就任した直後の大規模テロですからね。正直、プーチン氏の権威は地に落ちたといっても過言ではない。今後、国民からの批判は免れないでしょうね」(同)
しかも、なんと今回のコンサートホールを狙った武装集団によるテロは、事前に在モスクワ米大使館が情報を掴んでおり、それを7日の段階でロシア政府に伝えていたにもかかわらず「単なる挑発行為に過ぎない」として軽視していたというから、ことは重大だ。
「実際、プーチン氏は19日の連邦保安局(FSB)での演説で、『あからさまな威嚇同様の行動』として、『我々の社会を脅し、不安定にする意図を抱いたような行動。あなたたちはこのことを十分知っているだろうし、この段階では詳しくは立ち入らない』と発言しています。つまり、情報はあるが所詮それは威嚇行為に過ぎないだろうと。しかし、結果的に本当にテロが実行され、多くの死傷者が出てしまった。するとプーチン氏は23日になり、今度は容疑者らが『ウクライナに向けて逃亡しようとした。ウクライナとの国境を越えるための”窓口”が用意されていた』などと、あたかもウクライナ側がテロに関与したことを示唆する主張をし始める始末。当然、ウクライナ大統領府顧問は関与を否定。米国のカービー大統領補佐官も記者会見で『関与を示すものはない』とハッキリ述べていますからね。あまりにも姑息な言い訳としか言いようがありません」(同)
次期大統領選で圧倒的勝利を収めたとするプーチン氏。今後待っているのは国民からの大バッシングかもしれない。
(灯倫太郎)