今回ばかりは本気なのか、あるいは毎度おなじみのパフォーマンスに終わるのか。
5月11日、戦勝記念日一連の行事を締めくくる記者会見に臨んだロシアのプーチン大統領。その席で飛び出したのが、ウクライナに対する「直接交渉」提案だった。日時は5月15日。同氏が直接交渉の場として選んだのは、トルコのイスタンブール。
これが実現すれば、2022年の侵攻開始直後以来、実に約3年ぶりの直接交渉となるが、これまでも色々と条件を提示しながら「停戦」をのらりくらりと先延ばしにしてきたプーチン氏だけに、その“真意”に様々な憶測が飛び交っている。国際部記者の話。
「両国の停戦をめぐっては、今年3月にトランプ米大統領が『30日間の停戦』受け入れを迫って以降、キリスト教のイースター(復活祭)に合わせた30時間停戦、戦勝記念日に合わせた72時間停戦等、定期的に宣言されてきました。ただ、これはあくまでもロシア側からの一方的なもので、ウクライナ側は停戦宣言後も空爆が収まらなかったと主張している。今回も、ロシアが戦況で優位に立つなかでの提案だけに、長期停戦に向けてはロシアが自国に有利な条件を突き付けてくることは間違いないでしょう」
プーチン氏が、突如この提案をぶち上げる前日、実は欧州の主要国がウクライナを訪問。トランプ氏を交えた電話会談では、ロシア側に対し、12日からの「30日間の停戦」に応じるよう求めていた。
「11日に停戦を要請、12日に回答しろというのもかなり強引ですが、回答期限が1日しかない中、プーチン氏が即座に逆提案したのが直接交渉だったというわけです。ただ、プーチン氏は欧米側が要請した『30日間の停戦』には明確に回答していない。結局、事実上は欧米側からの要請を拒否したということになります」(同)
プーチン氏は記者会見の中でこう述べている。
「我々はウクライナとの真剣な交渉に取り組む。その目的は、紛争の根本原因を排除し、歴史的観点から長期的かつ永続的な平和を確立することだ。その交渉中に、新たな停戦に合意できる可能性を排除しない」
とはいえ、ロシア側が掲げる、排除すべき「紛争の根本原因」が、ウクライナの中立化(NATO非加盟)や非軍事化、非ナチ化である以上、その部分で譲歩することは、ありえないとみるのが自然だろう。では、なぜプーチン氏は突如、「直接会談」を逆提案したのだろうか。
「背景にはトランプ氏との水面下でのディールも見え隠れしますが、プーチン氏は、去年5月に任期が切れたゼレンスキー氏が大統領の地位にとどまるウクライナ現政権を『非合法』と批判している。おそらく停戦条件の中にはゼレンスキー氏の退陣、ウクライナ新政権樹立が含まれている可能性が高い。直接会談では当然、その部分の話し合いも行われるはずです」(同)
プーチン氏の提案を受け、トランプ氏は11日のSNSで《ウクライナは直ちに同意すべきだ。もし合意が可能でないなら、ヨーロッパの指導者やアメリカはそれを踏まえて行動することができる!》とコメント。《プーチンは第2次世界大戦の勝利を祝うのに忙しすぎる。私はウクライナがプーチンと合意できるか、疑い始めている。今すぐ会談を!》と強調。ゼレンスキー氏も会談には意欲を見せているが、戦闘終結の第一歩になるかは未知数だ。
(灯倫太郎)