【中国】ロシアと「月面原発計画」宇宙開発の新時代とそのリスク

 宇宙開発で主導権を握るため、いよいよ月面における原発建設が信憑性を帯びてきた。

 ロイター通信が4月23日、中国の宇宙当局者の談話として、中国がロシアなどと進める国際月面研究ステーション(ILRS)計画推進のため、月面に原子力発電所を建設することを検討していると報じた。ILRS計画については一昨年11月、両国の間で2027年までの宇宙協力協定が締結され、昨年3月にはロシアの国営宇宙開発「ロスコスモス」のボリソフ社長が国際フォーラムで講演中、中国と共同で33~35年ごろに月面に原子力エネルギー供給施設を設置する構想を「真剣に検討している」と述べ話題になった。

「ロイターの報道によれば、今回の発言は28年に打ち上げ予定の月面探査ミッション『嫦娥8号』で主任技術者が行ったプレゼンテーションで明らかになったもので、具体的かつ信憑性が高い内容だと伝えています」(外報部記者)

 月面基地に電力などのエネルギーを供給するためには、どうしても大規模な太陽電池アレイやパイプライン、ケーブルが必要になるが、このミッションの目的は、恒久的な有人月面基地建設に向けた基盤整備。ただ、これまで中国側からの正式な発表がなかったため、さすがに月に原発を作るのはリスキー過ぎるのでは、との懸念の声もあったが、今回のプレゼンで初めて中国政府の姿勢がより明確になったというわけだ。

「このプロジェクトには17カ国と約50の国際研究機関が参加しており、電力供給のために原発のほか太陽光発電施設を設ける計画もあるようです。ただ、昨年4月に開かれた国連安全保障理事会において、日米両国が共同提出した『宇宙空間での軍拡競争を阻止する』とする決議案に対し、『日米が勝手なことを言っている』とロシアは拒否権を行使、決議案が否決されたという経緯がある。そして、この際常任理事国で唯一棄権したのが中国だったというわけです」(同)

 1967年に締結された宇宙条約は、地球の周回軌道上に核兵器など大量破壊兵器を配備することを禁じているが、

「プーチン大統領自身も、表向き宇宙空間での核兵器配備には反対の立場をとっていますが、ロシアが決議案に拒否権を行使した頃は、米メディアが盛んに『ロシアが人工衛星の破壊を目的とした核兵器を開発中』と報道していた時期。つまり、今後月面に原子力発電所ができれば当然、核兵器配備が可能になる。アメリカに対抗する中国としても、宇宙空間をアメリカより前に支配したいという思いがあり、そのためにはロシアの協力が必要不可欠。国際月面研究ステーション計画推進は、そんなお互いの利害関係一致していることは言うまでもありませんが、両国がその先で何を考えているのか。そこが不気味なところなんです」(同)

 米メディアでは、近年、ロシアがEMPという核兵器を開発していると報じているが、これは爆発時の巨大なエネルギー波動により衛星の電子回路を焼き切って無力化するもので、使用されれば、軍事衛星だけでなく通信や放送、観測衛星などすべてに重大な問題が生じる可能性があり、世界は大パニックに陥る、という恐ろしい兵器だとされる。

 つまり、月面に原発が完成すれば、今後、地球だけでなく月においても、この恐ろしい核兵器を製造することも理論上可能になる。中露に対抗すべく米エネルギー省とNASAも、2030年代初頭には月面の原発設置を目指していると伝えられるが、今後さらに激しさを増すであろう、米中露による宇宙戦争の行方は。

(灯倫太郎)

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