ある重度の買い物依存症の女性のケースでは、ギャル・ブランドの新作が出ると、それを購入せずにはいられない。そのため新作が出ると、堀口氏は代わりに渋谷のファッションビルに出向き、ピンクのフリフリドレスを買い求めに行ったという。また、依頼者同士の獄中結婚を頼まれ、仲立ちとして、婚姻届提出の実務を担ったこともある。さらに、詐欺で捕まった拘禁者のケースでは、「カネはもうすぐ入るから」と明らかにでまかせの依頼をしてくる者もいて、「根っからの詐欺師がいるものだ」と、実感させられたことも少なくないという。
それにしても、なぜこうした仕事を始めたのか。実は堀口氏自身が、拘禁・受刑者生活を経験しており、そのことが起業の要因となっている。
5年半前、都内では雨の日にビルの高層階を狙った窃盗事件が多発し、その容疑者として堀口氏は窃盗と建造物侵入の容疑で逮捕されたのだ。
「(逮捕にあたった新宿署はその手口から)『アメ(雨)イジング・スパイダーマン』と呼んで捜査していた」(読売新聞19年11月3日付け)
「でも、窃盗なんて絶対していません。実際、警察が提出した証拠も、周辺の防犯カメラの映像は出してきても、肝心の犯行現場のものはなかった。また犯人が建造物に侵入する際に負ったケガとして採取した血液が、相当時間が経っていたにもかかわらず妙に赤々としていて、それを見た裁判官が『それ本当に血液?』と漏らしたほどです」
その不自由な拘禁者生活の中で堀口氏はリベンジを誓ったという。
「無罪を主張するために、拘置所、刑務所内で法律に関する書籍を100冊以上読んで、徹底的に勉強しました。幸い、私の場合は家族や友人など、本を差し入れてくれる支援者がいましたから。逮捕から実に3年半かけて最高裁まで争いましたが、残念ながら結果は覆りませんでした。ですが、行動の自由の乏しい拘禁者を支援する必要性を肌身をもって感じたので、現在の活動をするに至ったというわけです」
正確を期せば、堀口氏は出所前から支援活動を始めていたという。猛勉強により得た知識を駆使し、獄中内で各種相談に応じていた。すると堀口氏のアドバイスにより、中には何もしない私選弁護人から多すぎる着手金を取り戻すに至ったケースまで出てきたのである。この際、堀口氏は相談に乗っただけで、いわゆる非弁行為を行っていないことを付け加えておく。
(つづく)
※写真は東京拘置所