異例!中国当局が黙認した「北朝鮮スパイ逮捕」報道の意味

 言うまでもないが、当局により「鉄の情報統制」が敷かれている中国では、中国共産党とって都合の悪いニュースが表に出ることはない。仮にSNSで発信されようとも即削除され、間違ってもそのまま放置されるなどという状況もありえない。

 そう考えると、今回中国メディアが報じた「北朝鮮スパイを中国国内で拘束」という衝撃ニュースが持つ意味はあまりにも大きいかもしれない。

 北朝鮮のスパイとされる男が中国の軍事技術を盗んだ容疑で当局により逮捕された――。そんなニュースが韓国「聯合ニュース」によって報じられたのは、4月29日のことだ。同紙によれば、逮捕された容疑者は朝鮮労働党軍需工業部の下部組織から中国東北部の遼寧省に派遣されていたITスパイの一人で、先月、現地の宿泊施設からノートパソコンを持ち出し逃走。その後、中国の公安当局によって逮捕され、男のノートパソコンからはハッキングで入手したと思われる中国の兵器や軍事技術に関する情報が数多く見つかり、男自身もスパイ容疑を認めている、というのだが…。

「北朝鮮のハッカー集団が世界各国の防衛機関や企業にハッキングし、情報を盗み取っていることはよく知られる話ですが、まさか、かねてから『血の同盟』と言われてきた中国国内でスパイ活動を行っていたとは…。その事実にも驚きましたが、中国メディアがこの事件を報じたということは、当局が黙認、あるいは何らかの意図をもって、あえて流布しているというと。つまり、両国の関係は、すでにそこまでこじれているということです」(国際部記者)

 報道によれば、容疑者の逮捕を受け、北朝鮮は同地で活動する全IT部隊員を本国に呼び戻したとされる。このIT部隊員は同国の軍需工業部に所属し、北の兵器製造および研究開発計画を一手に担うことで国連制裁対象組織にも指定されているという。

「軍需工業部によって世界各地に派遣されたIT部隊員らは、各地で共同生活を送りながら、偽名を使い、軍関係の施設や企業に潜り込んでハッキングを行っているようです。今回逮捕された容疑者は現在も拘束中とのことですが、具体的にどんな罪に問われるのか、さらに今後当局がこの事件の経緯を公にするどうかなど、まったく明らかになっていません。ただ、中国があえて事件を公表したことは、北朝鮮に対しての警告にほかならない。中国側は北朝鮮側の出方を注視しているといったところでしょう」(同)

 昨年6月のロシアのプーチン大統領の平壌訪問以降、急速に進展したロ朝関係。北朝鮮軍がロシア軍支援のためにウクライナ侵攻に加わったことで、その関係性はより蜜月になったといわれる。一方、ロシアにべったりとなった北朝鮮と中国との間にできた溝は深まるばかりで、習近平主席としても、それが頭痛の種だとされている。

「北朝鮮の公式な貿易統計によれば、2023年度の中国からの輸入は98.3%と、その9割以上を占めていた。おそらく現在も、北朝鮮が中国に大きく依存している事実は変わらないでしょう。ただ、短期とはいえウクライナ戦争へ加担したことで、ロシアから巨額の外貨を得たことは間違いない。そうなると、国際社会から孤立している北朝鮮を支援し、だからこそ強い影響力を維持できた両国間におけるパワーバランスが崩れかねない。そこに中国のジレンマがあることは間違いありません。ただ、今の北朝鮮は完全にイケイケどんどんですからね。はたしてこのスパイ逮捕劇が今後どう影響してくるか。プーチン大統領も注目していることでしょう」(同)

 複雑に絡み合う中国と北朝鮮との関係が、また大きく揺らいでいる。

(灯倫太郎)

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