1月20日に第47代米大統領として2期目の就任を果たしたトランプ氏が、わずか3カ月で世界に大きな波紋を広げている。1期目を超える過激な「トランプ関税」や同盟国への圧力は国際秩序を揺さぶり、米国内でも賛否が分かれる。興味深いのは、トランプ氏が中国の習近平主席やロシアのプーチン大統領と対立しつつも、彼らの「強いリーダー」像に共感を示すかのような姿勢だ。
トランプ氏は就任直後から、25~100%の関税を中国や欧州、カナダなどに課す「トランプ関税」を推進したが、1期目の保護主義を上回る規模で、グローバルサプライチェーンに混乱をもたらしている。これに対し、中国は対抗措置としてレアアース輸出制限を強化し、習氏は「握手より拳」を選ぶ姿勢を鮮明にした。対し、トランプ氏はNATOや在韓米軍の負担増を同盟国に求め、応じない場合は「保護の放棄」を示唆するなど、1期目以上に独断的な外交を展開している。
一方、国内では移民政策の強化や連邦政府の「ディープステート」一掃を掲げ、行政機関への介入を強める。大規模な不法移民の強制送還や、FBI・司法省への忠誠要求は、議会や司法との摩擦を招いている。これらの政策は、トランプ氏が「強いリーダー」として米国を再構築する意図を反映するが、独裁的との批判も高まっている。
トランプ氏の統治スタイルは、プーチン氏や習氏と驚くほど類似している。第一に、権力の集中だ。プーチン氏は20年以上にわたりロシアの政治を支配し、習氏は終身主席の道を開いた。トランプ氏も、2期目で最高裁や議会への影響力を強化し、自身に忠実な体制を築こうとしている。1期目では側近の離反や司法の抵抗に直面したが、今回は忠誠心の高い閣僚を揃え、抵抗を最小限に抑える戦略を取る。
第二に、ナショナリズムの強調だ。トランプ氏の「アメリカ・ファースト」は、プーチン氏の「ロシアの偉大さの復活」や習氏の「中華民族の復興」と共鳴する。トランプ氏は国内製造業の保護やエネルギー独立を掲げ、国民の愛国心を煽る。プーチン氏はウクライナ侵攻で、習氏は南シナ海の領有権主張で、それぞれ自国の覇権を誇示する。トランプ氏の関税政策も、経済的覇権の維持を目的とし、国民の支持を固める道具となっている。
ただし、3者の間には決定的な違いもある。米国は三権分立と強い市民社会を持ち、トランプ氏の権力集中には限界がある。最高裁や議会、州政府はすでに抵抗を示しており、2026年の中間選挙で共和党が議席を失えば、トランプ氏の影響力はさらに弱まる。対照的に、ロシアや中国では制度的なチェックがほぼ存在しない。また、トランプ政策は一貫性を欠き、即興的な判断が多い。プーチン氏や習氏の長期戦略に比べ、トランプ氏の「取引の芸術」は短期的な成果に偏りがちだ。
トランプ氏の「強いリーダー」志向は、国際秩序に深刻な影響を及ぼす。関税戦争は世界経済の分断を加速し、同盟国の信頼を損なう。プーチン氏や習氏は、米国の内向き姿勢を好機と捉え、グローバルな影響力を拡大するだろう。特に中国は、トランプ氏の孤立主義を背景に、アジアやアフリカでの経済圏構築を加速させる可能性が高い。一方、トランプ氏がプーチン氏や習氏との直接交渉を試みる可能性もあるが、価値観の違いから妥協は難しい。
トランプ政権の3カ月は、プーチン氏や習氏のような「強いリーダー」を志向する姿勢を浮き彫りにした。権力集中、ナショナリズムは三者に共通するが、米国の民主主義の枠組みはトランプ氏の独裁的傾向を抑制する。世界はトランプ氏の予測不能な政策に振り回される一方、プーチン氏や習氏は自らの覇権を強化する機会を窺う…。果たしてトランプ氏が目指すのは「米国のプーチン」か「米国の習近平」か、その答えは今後の政権運営にかかっている。
(北島豊)