拘置所の便利屋が明かす「檻の中は波瀾万丈ナリ」(1)差し入れ人気は“性と食”関係

 公開中の映画「金子差入店」は、拘置所・刑務所に収容された人々への差し入れを代行する男の物語だ。罪を犯し、あるいは罪を犯さずとも逮捕されれば、自由を奪われ、社会から隔絶された囚人となる。そんな檻の中で過ごす人々のために人知れず動く便利屋がその実態を打ち明けた!

「よく頼まれる人気の差し入れ品は、やはり男性だと艶本や露出が多めのグラビアがある週刊誌でしょうか。女性の場合は圧倒的にお菓子類でしょうね。チョコレートやスナックなど、取り合わせは依頼者の好みに応じて私の方で考えます。でも、こっそり官能小説を差し入れると意外と喜ばれることが多いんです」

 こう打ち明けるのは、「Moon Shine」と称する「差入屋」の代表・堀口裕貴氏だ。やはり性と食の欲は塀の内外に別がないということなのだろう。続けて、堀口氏が話す。

「差し入れ品として多い書籍類では、歴史小説などの読み物が好まれます。その他、漫画や意外にもグルメ雑誌の人気も高いですね」

 拘置所内での食事は制限される。その反動からか実際には食べられないグルメ情報などで、せめて脳内の食欲だけでも満足させたいという拘禁者たちの悲哀が感じ取れる。「差入屋」は複数、存在しているものの、その実態については不明な点が多い。中には拘禁者の悲哀につけ込んで、ボッタクリまがいの価格をふっかける業者までいるという。そこで、堀口氏は明朗会計のシステムを取り入れたという。

 食品の差し入れの場合は、1回の注文につき3000円、月極契約7000円。書籍の場合、3冊につき手数料1000円+送料。外部世界では簡単にアクセスできる情報も拘置所内は不足するので、文字情報の差し入れでのコピー代と写真処理ともに、10枚につき1000円+実費を受け取っている。

 堀口氏は差し入れだけに限らず、業務の範囲を「あらゆる代行業務」へと広げている。

 例えば、自宅の片づけや家財道具の処分は、見積もりのための現地調査が2万円で、処分料は10万円から。また多くの未決拘禁者は法律知識をほぼ持ち合わせていない。どうしても弁護人任せになってしまうため、弁護人と拘禁者との間の調整まで行っている。この場合、一律料金とはいかないようで、まずは事情を聞いた上で見積もりを提出して、拘禁者に納得してもらってから調整に入るという。さらに、孤独を癒やすための文通や面会にも堀口氏は取り組んでいる。こちらは手紙で1通2000円、面会ならば4000円(初回無料)。また、1回につき3000円の洗濯など、まさに「拘置所の便利屋」だ。

「様々な依頼人がいますが、多くの場合、お金がなく、もともと身寄りが少なく、逮捕と同時に縁が切れ、外の世界で頼れる人がいない。具体的な依頼としては、お金がなく国選弁護人を頼ったものの、ろくすっぽ面会にも来なければ手紙の返事もないというもの。また、重度の精神障害があって、コミュニケーションがままならず、弁護人とのやりとりができないというケースです。意外と多いのは後者のパターン。お金がない場合には、特別に3人程度までに限って無料で支援を行っています」

 事実は小説より奇なり。檻の中からは思いもよらない依頼が舞い込む。

(つづく)

※写真は「差入屋」の堀口氏

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