2023年3月、中国でアステラス製薬の日本人男性社員が突如拘束された日から、2年が経過した。スパイ容疑をかけられ起訴内容すら明かされないまま、彼は今なお自由を奪われたままだ。健康状態に大きな問題はないとされるが、釈放の目途は立たず、家族や同僚は不安の日々を送っている。
しかし、これは単なる一人の悲劇ではない。背後には、複雑化する日中関係や台湾有事を巡る国際的な緊張が絡み合っている。この事件は、日本人にとって新たな恐怖の幕開けを告げるものかもしれない。邦人拘束が今後さらに増える恐れは、もはや絵空事ではないのだ。
中国の習近平指導部は、「国家安全」を最優先に掲げ、外国人への監視と締め付けを強めている。アステラス社員の拘束は、その象徴的な一例に過ぎない。他国の企業関係者や研究者も次々と摘発され、スパイ容疑という曖昧な理由で身柄を拘束されている。日本人だけでも、過去10年で17人が同様の目に遭っており、その数がいっそう増える恐れもある。
そして、その行方を左右する大きな要因として台湾有事がある。中国が台湾への軍事的圧力を強める中、日本は地理的にも戦略的にもその渦中に巻き込まれざるを得ない。もし台湾で武力衝突が起きた場合、日中関係は一気に破綻し、日本人は中国にとって敵国の民として標的にされる可能性が高いのだ。
想像してみてほしい。出張や観光で中国を訪れた日本人が、ある日突然、当局に連行される光景を。パスポートを取り上げられ、家族との連絡も絶たれ、暗い独房で尋問を受ける。拘束理由は、国家安全を脅かした疑いとだけ告げられ、それ以上は伝えられない。企業関係者だけでなく、学生や研究者、ジャーナリストさえもがターゲットになり得る。中国に駐在する日本人約10万人のうち、何人がこの危機に巻き込まれるのか。日中関係が悪化すれば、邦人拘束は雪だるま式に増え、日本政府の外交力では対応しきれなくなるだろう。
この危機を煽るのは、中国の強硬姿勢だけではない。日本企業が中国市場に依存し続け、社員を危険に晒している現実も見逃せない。アステラス製薬のように、中国での事業拡大を進める企業は多いが、リスク管理は十分なのか。社員が拘束されても、外務省に任せるとしか言えない企業側の無責任さが事態を悪化させている。台湾有事が現実となれば、中国にいる日本人全員が人質のような状況に置かれるかもしれない。
今、我々が直視すべきは、このままでは取り返しのつかない事態が目前に迫っているという事実だ。2年目の節目を迎えたこの事件は、日本人にとって一つの警告と捉えるべきだろう。
(北島豊)