トランプ関税で世界秩序はこう変わる(3)日本に「黄金期」が到来

 トランプ大統領就任から100日余り。自由貿易を基にした「共存共栄」の戦後秩序が終焉に向かい、激動する世界の中で見えてきたことが3つある。

 1つは、戦後の世界を牽引してきた米国の「凋落」が始まったこと。

 2つ目は、米国に代わり覇権国家を狙っていた中国が、共産党の存続が脅かされるほど経済が悪化していること。

 3つ目が、米中の対立で日本の「黄金時代」が始まろうとしていること、だ。

 こう見ていくと、「失われた30年」と言われるほど経済低迷が続いた日本に、なぜ黄金期が訪れるのかと疑問を持たれるかもしれない。

 それを解くカギは、米中の対立にある。

 中国はつい半世紀前まで、鎖国政策をといっていた国だ。共産党革命に成功した毛沢東が、民主主義国家を警戒したためだが、それにより経済は低迷し、世界の最貧国に堕ちていた。その中国の警戒心を解き放ち、鎖国の扉を開かせ、近代化に向かわせたのは実はアメリカだ。

 1971年、ニクソン米大統領の密命を負ったキッシンジャー大統領特別補佐官が極秘訪中し、外交の道筋を作る。その後、世界の先進国が競って中国と通商条約を結び、中国発展の基礎が築かれる。日本も田中角栄首相が1972年に訪中し、国交が正常化された。

 ところが、近年の米国政府は世界第2位の経済大国にのし上がった中国を敵視し、「封じ込め」「叩き潰す」ことを最大の政策としている。対中方針が大変化した理由は、中国の発展に協力しても、民主化が進展するどころか、一段と厳しい監視社会に向かい、かつ、世界を中国化する野心を露骨に示すようになったからだ。

 米国の国内事情もある。アメリカの製造業は、新自由主義の登場とともに衰退していった。1990年代に米国がITと金融に力を入れ、グローバリゼーション時代が始まると、米国政府の支援がおろそかになった製造業は衰え、労働者や失業者が取り残された。

 彼らが訴える「今のアメリカはおかしい。一旦壊すべきだ」との声が多数派となり、トランプ大統領が誕生したわけだが、トランプ氏が掲げるMAGA(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン=米国を再び偉大に)とは、米国の製造業を再興し、中国を圧倒した時代に戻すという意味でもある。

 ここで重要なのは、アメリカ経済復活の「鍵」を握るのが日本だということだ。

 日本が「失われた30年」の間にひたすら進めたのが企業改革である。製造業は生産の合理化・効率化に知恵を尽くし、財務を改善し、企業を稀に見るほど強い体質に変えてきた。

 この点、不動産バブル破綻で多くの関連企業が倒産した中国とは雲泥の差だ。米国が中国を「封じ込める」うえで、経済的にも地政学的にも日本の力を必要としていることは間違いない。

 米国の製造業復活の狼煙は日本製鉄のUSスチール買収が試金石となる。その結果がどうあれ、米国は日本企業と繋がりを深めていくだろう。

 既に、半導体工場やデーターセンターが続々と日本に進出しているが、これは黄金期に向かう前兆である。

(団勇人・ジャーナリスト)

ライフ