トランプ大統領が放った相互関税は世界第2位の経済大国・中国に大打撃を与え始めている。
不動産バブルが破綻しても、中国庶民の共産党への信頼は揺るがなかった。だが、今回の中国を標的にした「145%」という想像を絶する追加関税を宣言された直後から、中国全土の中小零細事業家から悲鳴が上がった。
中国は経済大国になる過程で、今では信じられないであろうが、都市戸籍者のほとんどが労働集約型の産業で働いた経験がある。それは農民工に引き継がれ、衣料、繊維、雑貨、玩具、家具生産が今でも中国経済の主要な柱であり、米国市場と密接な関係にある。
2024年の中国の対米輸出は5246億ドル(約75兆円)で輸出総額の14,4%に及ぶ。米国向けの輸出は年々低下する傾向にあるが、国別では断トツのトップであり、米国に代わる市場はないのが現実だ。
中国国家統計局が発表した2025年1~3月期のGDP(国内総生産)は、前年同期比5,4%と微増だった。不動産バブル崩壊が進む中国が「なぜ微増なのか」という疑問もあるだろうが、数字の信頼性はともかく、相互関税の影響はこれからが本番である。
米国という大口の輸出先を失った中小零細企業がバタバタと倒産し、大規模な失業者が発生するだろう。関税が施行されれば、中国経済が「地獄」の入口に立ったのも同然だ。
中国は改革開放以来、経済史の常識を塗り替えるほど、ひたすら経済成長を続けてきた。成長がピークアウトしたのがコロナウイルスが見つかった2019年。世界中にコロナ禍が拡がる中で、始まったのが不動産バブルの破綻だった。
14億の国民に期待を抱かせた不動産神話はもろくも崩れ、土地の売却を財政源としてきた地方政府が不良債権にもがき、給与の不払いでしのぐほど困窮するところもあった。
不動産関連産業が連鎖倒産し、失業者が溢れ、殺人や強盗、窃盗で社会不安が中国全土に浸透した。その状況下で最大の輸出先が扉を閉じたのだから、影響は計り知れない。
格付け会社フィッチは4月3日、中国のソブリン格付けを「Aプラス」から「A」に引き下げた。これは、中国経済にとって強烈なダメージになるだろう。さらに格下げされれば、中国発の金融危機が発生するかもしれない。習近平中国は、この難局をどう乗り越えるのか?
中国は4000年の歴史を有する大国だ。国家存亡の危機を何度も経験した知恵がある。第1次トランプ政権の折に中国は手痛い経験を余儀なくされた。いまも米国との対決に備え、様々な選択肢を考えているに違いない。
(団勇人・ジャーナリスト)