前線でウクライナ兵や市民らに散々残虐行為をおこなってきたにもかかわらず、この突然の掌返しの裏には、いったいどんな思惑が潜んでいるのか。
現在、ウクライナ戦の最激戦地である東部ドネツク州バフムトの攻防で、ロシア軍側主力として戦闘を続ける民間軍事会社「ワグネル」。そのトップであるプリゴジン氏が4月14日、SNS上で突然「侵攻開始から1年に当たる今年2月24日時点の前線を停戦ラインとすべきだ」として「プーチン政権は軍事作戦の終了を宣言すべき時」との声明を発表。続けて「停戦しない場合、露軍はウクライナ軍の反攻で占領地域を奪還され、威信も失う恐れがある。ウクライナはかつてロシアの一部だったかもしれないが、今は国民国家だ」と、これまでプーチン大統領が主張してきた「ウクライナはロシアの一部」とする持論に真っ向から反論。この急転直下の発言が国内外に波紋を広げている。
「プリゴジン氏は声明で、この1年でロシアはウクライナ領の重要地域をはじめ、本土とクリミア半島を結ぶ陸路も占領するなど、すでに十分な戦果を達成した。この上、ロシア軍が掲げる東部ドネツク州全域の制圧を継続すれば、ウクライナ軍の反攻で部隊全体が敗北する可能性もある、と警告しています。もちろん、『軍事作戦は目標達成まで続ける』とするプーチン政権が現時点で停戦に動く可能はゼロに等しいものの、プーチンの盟友とされるプリゴジン氏がここまではっきり異を唱えたことはなかった。このタイミングでなぜ、彼がこんな文章をSNSに綴ったのか、その真意を巡りさまざま憶測が囁かれています」(ロシアウォッチャー)
そして欧米メディアが指摘するのが、今回の米国防総省機密文書の流出によってロシア軍が戦死者数を操作していることがバレたからではないか、という説だ。というのも、これまでロシアはウクライナでの戦死者数についてほとんど公表せず、そのため、かねてからプーチン氏はロシア軍の実際の被害程度を把握していないのではないかという複数の専門家の指摘もあった。
「皮肉にも流出した米機密文書により、ロシアの国防省が兵士の戦死者数を少なくするため、国家親衛隊やワグネルなどの死者数を計上せず、ロシア連邦保安庁(FSB)に厳しい指摘を受けていたことなどが明るみに出てしまった。さらに内部文書には西側がこれまで指摘してきた、ロシア軍と治安当局との間で生じている対立を裏付ける情報もあり、そういったマイナス部分が一切、プーチン氏のもとへ上がっていなかった可能性が明らかになってしまった。つまり今回のプリゴジン発言の背景には、自身の部隊の戦果をアピールし、ロシア国内での存在感を強めたいという狙いのほか、ウクライナ軍の反転攻勢で情勢が悪くなる前に『私は止めましたよ』と既成事実を作っておくこと。そして敵対する国防省に対して“それみたことか”と側面攻撃もできる。そう考えるとプリゴジン氏にとって、アメリカの機密文書流出は渡りに船だったということになります」(同)
敵の敵は味方……狡猾な民間軍事会社オーナーの本性が見え隠れする。
(灯倫太郎)