中東で新たな火種が起こったことで気になるのが、すでに大火となっているウクライナだ。西側諸国から戦車や装甲車などの兵器が供与されたにもかかわらず、反転攻勢の成果はいまひとつ見えてこない。ドロ沼長期戦の先には思わぬ逆境が待っていた。
ウクライナのゼレンスキー大統領(45)が反転攻勢に打って出たと明言したのが6月10日。ドイツから供与された期待のレオパルト2戦車やアメリカからのM2ブラッドレー歩兵戦闘車などを投入して、満を持しての反攻だったが、それからはや4カ月が経過した。
ウクライナ苦戦の理由を、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏はこう見ている。
「ひと言で言って膠着状態です。ロシア軍の地雷原などの防衛ラインが強固なことが大きな理由です。ウクライナの反転攻勢が展開されているのは、東部のドネツク州バフムト周辺、ドネツク州など東部戦線とクリミア半島およびその北方のヘルソン州など南部戦線を繫ぐ回廊にあたるザポリージャ州です。それでもザポリージャの戦いでは、ウクライナはロシア側が築いた防衛線を突破して少しずつ前進している。その先には要衝トクマクがあり、ロシア軍を東西にブッタ切る作戦に出ていると思われます。このウクライナの作戦が思惑通り進めば、戦況は大きく一転するでしょう」
ただ問題は、すでに戦いが1年8カ月続く中、以前から指摘されている西側諸国の〝支援疲れ〟だ。9月20日、ウクライナ産穀物の輸入規制でウクライナと対立するポーランドのモラウィエツキ首相(55)は「今後、ウクライナに武器を送らない」と、支援見直し発言をした。
そのポーランドの地を先日踏んだばかりの軍事評論家、井上和彦氏もこの点を危惧する。
「ポーランドなど、東欧の農業国でウクライナ支援の姿勢に陰りが見えていることは、ロシアにとっては好材料です。ポーランドが新たな武器提供の見直しを打ち出したのと同日、ゼレンスキー大統領は国連総会で『悪は信用できない』『団結して行動を』と強く訴え、いっそうの供与を呼びかけた。ゼレンスキー大統領の立場を考えればよく頑張っていると思いますが、それが支援疲れを呼び起こすようではかえってロシアに利することになります。だとすればあまり強く訴えかけることは逆効果になってしまうと思うのですが‥‥」
その西側諸国では、トップのアメリカ自体が今後の支援策での足並みがそろっていない。前述の通り10月3日に共和党のケビン・マッカーシー下院議長が解任されるという騒ぎが起こった。もともとウクライナの支援継続に反対論が強い共和党議員が、身内であるにもかかわらず解任動議で賛成に回ったためで、下院議長の解任は、アメリカ史上初という異例の事態にまで発展し、国論を二分しているのだ。
そして大きく潮目が変わるかもしれないのが、来年に控えるアメリカ大統領選挙の結果だ。
「西側支援での最大の支障は、トランプがアメリカ大統領になること。ご承知のようにトランプはアメリカファーストで、支援の縮小を断言していますからね。アメリカが支援から手を引くようなら、体力の弱い東ヨーロッパの国々の支援も大きく揺らぎかねないでしょう」(黒井氏)
日本のウクライナへの支援は70億ドル(約1兆400億円)、岸田総理は、同じ国連総会でウクライナ問題を念頭に置いて「人間の尊厳」を高らかに謳ったばかり。が、親分アメリカが翻意した時に、果たしてその困惑したメガネ顔をどちらに向けることになるのか。