ロシア政府が8月7日、9月に始まる新学期を前に、刷新された歴史教科書の内容を公表した。新たにウクライナへの軍事侵攻についての記述が盛り込まれているのだが、その内容を巡り、波紋が広がっている。
「新しくなった教科書は、ロシアの10年生と11年生(17〜18歳)、つまり日本の高校生にあたる学年を対象にしたもので、全部で4冊あります。今回、初めてウクライナへの軍事侵攻についての記載が盛り込まれたのですが、教科書ではその理由について、『ウクライナ東部住民に対する保護と、安全保障上の脅威を取り除くため』というプーチン大統領の発言をそのまま引用しています。さらに、特別軍事作戦は社会を団結させ、軍人や戦地住民への支持が集まったとし、欧米などによるロシアに対する制裁を『完全に不法』と断じるなど、これまでのプーチン氏の主張があたかも歴史的事実であるかのように記載されているのです」(ロシアウォッチャー)
記者会見で新しい教科書について発表したメジンスキー大統領補佐官は「教科書は国家の立場を示したものだ」と断言。特別軍事作戦に至る背景には、西側からの脅威があったから、との従来の主張を繰り返した。
「ロシアの独立系メディアからは、軍事侵攻が続く中、独自の解釈が歴史教科書に記載されることへの懸念や批判も噴出したようです。しかし、責任者であるクラフツォフ教育相は、『今や誰もが考え、家庭でも学校でも話し合っている特別軍事作戦について触れないのは偽善』とあくまでも強気の構えで、今回に限らず、来年9月の新学年までには低学年向けの国定教科書も完成させる予定、とコメントしています。今後もこうした主張を記載することで、政権が教育を通じ、若い世代に軍事攻略の正当化をアピールしていくことは間違いないでしょう」(前出・ウォッチャー)
教科書には「侵攻」について大きく一章が割かれ、侵攻で戦死し表彰された人物の記載もある。特に西側に対する批判的表現が多く、ロシアをさまざまな紛争に「引きずり込む」ようになったのは西側諸国で、その究極的な目的はロシアを破壊し、その天然資源を奪うことにある、と主張する記述もあるという。
ちなみに、15歳で北京五輪に「ロシア・オリンピック委員会」の選手として出場し、その後ドーピング問題が発覚した女子フィギュアスケート選手、カミラ・ワリエワも、今年4月に誕生日を迎え、17歳になった。つまり、この新しい教科書を授業で学ぶことになるわけだ。
クラフツォフ教育相は、「作戦が終わり、われわれが勝利したあと、さらに教科書は改訂される」とも語っている。ならば、「敗戦」した場合も、きちんと改訂して欲しいものだ。
(灯倫太郎)