「プーチン氏とは頻繁に話をするし、いつも満足して電話を切ってきたが、直後にはキーウやほかの町にミサイルだ。さすがに話しても無駄だとわかった。行動と結果が必要だ」
7月14日、記者団に対し、ウクライナ支持に急旋回した理由をこう語ったトランプ米大統領。トランプ氏はこれまで、ロシアとの二国間関係改善とウクライナ和平交渉の実現を重視することで、ロシアに対し「ムチ」ではなく「アメ」を重視してきた。
しかし3月、プーチン氏はトランプ氏の提案する包括的な停戦案に同意したように見せかけながら、一方では西側諸国に対しウクライナへの軍事支援や情報提供の停止、さらにウクライナ軍の動員解除を求めるなど、その姿勢が変化することはなかった。
「トランプ氏の弱気とも取れる外交姿勢に、米国国内の世論も反発。あるシンクタンクによる世論調査によれば、トランプ氏による一連の対ロシア外交に対し、民主党支持層の73%、中道層の58%、さらに共和党支持層でさえ48%が『強硬ではない』と回答しています。その結果が今回の親ロシア外交路線からの急転換につながったのではないかとみて間違いないでしょう」(国際部記者)
今後、トランプ政権は、米国製の武器を欧州に販売。それを欧州がウクライナに渡すという方式を受け入れることになるが、同時に50日以内にロシアが停戦に合意しなければ、その貿易国に対しても、100%の2次関税を課すことも発表した。
「ロシアによるウクライナ侵攻以降、経済制裁もあり、世界の国々が次々とロシアとの貿易を縮小するなか、中国とインドだけは逆に貿易を拡大。2021年時点において、この2カ国で2割程度だったロシア産原油の輸入量が昨年度は6割近くになり、結果、蓋を開けてみると、ロシアの輸出量は戦争前とほとんど変わらない状態に留まっていた。そこで、トランプ氏はプーチン氏に対し、停戦に合意しないなら次は盟友の国々も制裁を加えるぞ、と圧力をかけたというわけです」(同)
トランプ氏の発言を受け、ロシアメディアは一斉に米大統領への期待は失われた、と報道。有力紙「モスコフスキー・コムソモーレツ」は、14日の紙面で「(トランプ氏は)明らかに誇大妄想に取りつかれている。そして、とても大きな口をたたく」と痛烈に非難している。
「トランプ氏はこれまでにも『関税をかける』と言っては、前言を翻してきた”前科”があり、50日以内という猶予期間を設けていることで、現段階においてロシア側の反応は冷静です。ロシア連邦会議(上院)のコサチェフ委員長なども、タス通信の取材に対し『トランプの言葉は戯言だ』『50日以内に心変わりする可能性がある』と述べています。そんなことから、トランプ発言直後には、国際原油価格が2%以上下落したものの、モスクワ証券取引所は逆に2.5%上昇。この数字は、言うまでもなく市場の安堵感を示しているということです」(同)
ただし今回、トランプ政権がNATO加盟国に対し購入を認めた米国製兵器の
ロシアの友好国を巻き込んだこの「2次関税」策がはたして功を奏するか否か。50日後といえば、プーチン氏が「抗日戦勝記念式典」出席で北京を訪問しているタイミングだが…。さて、行方はいかに。
(灯倫太郎)