「ハーバードが非常に反ユダヤ主義的であることは誰もが知っている」
5月25日、集まった記者団を前にハーバード大学に対する敵意をむき出しにしたトランプ米大統領。さらにSNSへも《学生の31%近くが全く友好的でない国を含む外国から来ている。その外国は教育に一切金を払っていない。なぜハーバードはそれを言わないのか》と投稿、あらためて同大学に対し不満をあらわにした。
トランプ政権が、ハーバード大が反ユダヤ主義を助長する中国共産党と協力していると主張し、同大の外国人留学生受け入れ資格取り消しを発表したのは22日のこと。しかし、同大が米連邦地裁に提訴したことで翌23日、地裁は政権側に命令の一時差し止めを命じていた。国際部記者の話。
「同大学によれば、今回トランプ政権が発表した受け入れ資格取り消しを示唆した外国人留学生のなかには、2024年度の留学生の5分の1を占める中国人学生も含まれているのだとか。ハーバード大と一部共和党議員との間ではかねてからいさかいが絶えず、議員らは長年にわたり中国がハーバード大を操って米国の先端技術にアクセスし、米国の安全保障法を回避、あるいは米国国内での中国批判を封じ込めている、と主張してきたんです」
たしかに、同大と中国とは研究提携などで長年にわたり深い関係があり、同大の学術センター設立に中国が多額の寄付を投じてきたことは事実。しかし、そんな中国人留学生らが、アメリカの大学で生まれた知見や情報を母国に持ち帰り、結果それがアメリカの国家安全保障上の危機になっている、というのが共和党、すなわち現トランプ政権の主張だ。
「実際、ハーバード大が2020年から公衆衛生関連の研修を提供してきた中国共産党傘下のXPCCという団体が、その後新疆ウイグル自治区におけるウイグル人などに対する人権侵害に関与したとして、米政府から制裁を科された過去もあります。さらに2021年には、中国によるスパイ活動や知的財産窃盗を摘発する目的で導入された『中国イニシアチブ』調査により、ハーバード大元教授が虚偽申告をしたことが判明。有罪判決を受けていますからね。トランプ政権が、中国政府と繋がりを持つ教授や学生団体らの政治活動に懸念を募らせていることは間違いないでしょう」(同)
トランプ氏は26日、自身のSNSで、ハーバード大学に対する連邦政府の補助金「30億ドル」(約4280億円)を職業訓練学校に振り分ける考えを示唆する投稿をアップしたが、
「トランプ政権は以前から補助金継続の条件としたDEI(多様性、公平性、包摂性)推進の見直しなどを同大学に要求していましたが、大学側はこの要求を拒否。結果、すでに26億ドル以上の補助金や契約が停止されていることから、さらに補助金が減額、あるいは打ち切りとでもなれば死活問題になりかねない。そんな中で勃発したのが、今回の留学生の受け入れ資格取り消し発表問題だったというわけなんです」(同)
そもそも、トランプ政権の支持基盤は「反エリート」層だ。トランプ氏が掲げる反エリート主義は政治運動「MAGA(アメリカを再び偉大に)」の中核でもあり、選挙公約でも、名門エリート大学を「『ウォーク』(意識高い系を揶揄する言葉)は思想の牙城だ」として攻撃。アメリカの高等教育、特にエリート大学が「ダイバーシティ(多様性)を進めすぎていることを是正していく」と公言してきた。
「結局、選挙でも公約していたようにトランプ氏が目指すのは、所得が低くても反知性主義的でも自由に学ぶことができる開かれた『トランプ大学』。そんな大学実現のためにも、今後もハーバード大執行部をあの手この手で揺さぶりをかけることになるでしょうね」(同)
名門エリート大学VSトランプ政権の戦いはまだまだ続きそうだ。
(灯倫太郎)