国際的な公開情報収集企業「モルファー」が、ロシア国内にある民間軍事会社の調査を発表したのは今年4月のこと。すると、ウクライナ以外で活動している12社と合わせ、ロシアには民間軍事会社が全部で37社あり、それらすべてが何らかの形でプーチン政権と関りがあることが明らかになった。
ロシアでは民間軍事会社は非合法で、公には認められていない。だが、ウクライナへの侵攻開始後は、戦死者を出しても責任を負う必要がなく、財政負担を軽減でき、さらには正規軍を追加動員し国民の反発を招くことを避けるために、軍の別動隊として民間軍事会社を利用してきたという背景がある。
「モルファーの調査によれば、37社のうち25社が公金を資金源とした会社で、その他はオリガルヒが資金を出したり、官民協同で運営しているとされます。中でも巨額の公金が投入されたのがプリゴジン率いるワグネルでした」(ロシア情勢に詳しいジャーナリスト)
ところが、6月に起こったプリゴジンの乱以降、両者の関係に溝ができ、ワグネル部隊はその大部分が隣国ベラルーシへ移動。そんな中、英国防省はロシア政府がワグネルへの資金提供をストップする可能性が高いとの見解を発表し、波紋が広がっている。
「プーチンにとってプリゴジンは、自身に刃を向けた許しがたき裏切り者ですが、ワグネルがアフリカ諸国に太いパイプを持つことから、切るに切れない状況でした。そのため、ベラルーシに拠点を移しても資金提供は継続されると見られていましたが、今回の英国防省の発表が確かならば、ロシア政府は完全にワグネルと手を切ったことになる。ワグネルが次に資金提供を求めるのはベラルーシということになりますが、同国がこれだけの部隊を維持することは困難ともいわれることから、資金繰りが厳しくなったワグネルが支出削減のため、軍の規模縮小・再編に動いているとの分析もあります」(同)
一方、ロシア政府によるワグネルへの資金提供停止の発表に小躍りしているのがロシアの他の民間軍事会社だ。ワグネルへの資金提供がなくなれば、その莫大なカネが回ってくる可能性があるからだ。
「37の民間軍事会社のうち11社はウクライナ侵攻開始後に設立された新しい会社。これらが戦場でも火花を散らしていたともいいますからね。今後は政府からの支援を巡りそれが激化することになりそうです」(同)
現在、ウクライナの最前線に戦闘員を積極的に送り込んでいるのは、国営天然ガス企業ガスプロムがスポンサーを務める「ファケル」「ポトーク」、オリガルヒが出資する「リダウト」、さらにはクリミア半島共和国の首長・アクショノフ氏が支援する「コンボイ」などが、ワグネルに次ぐ大規模部隊だとされる。
「ガスプロムなどエネルギー関連企業には、もともとパイプラインなどを守るため警備部隊があり、それが国防省の傘下に入りウクライナ侵攻に参加しているという構図のようです。新興財閥の経営者が立ち上げた民間軍事会社は完全に公金が目当て。米国の政策研究機関『戦争研究所』によれば、今年に入ってからショイグ国防相も『パトリオット』という民間軍事会社を立ち上げ、ウクライナに兵士を派遣していると伝えられます。今後は30数社入り乱れての公金争奪戦がエスカレートするでしょう」(同)
公金、すなわちそれはロシア国民が必死に働いて払った血税に他ならない。それを、私利私欲にまみれたハイエナたちが食い荒らそうとしているこの現実を、ロシア国民はどう見ているのだろうか。
(灯倫太郎)