西アフリカのニジェールでモハメド・バズム大統領が、警護に当たっていた軍の部隊に監禁され、軍事クーデターが起こったのは7月26日のこと。すると、クーデター支持派の住民が大規模デモを行い「ロシア万歳」「プーチン万歳」と叫ぶなど、同国はいま「西側諸国vsロシア」の〝代理戦争〟の様相を呈している。
「ニジェール共和国は、旧フランス植民地で60年に共和国として独立した、周辺では唯一の民主国家です。サハラ砂漠の南縁に位置するサヘル地域では、20年に入ってからマリ、ギニア、ブルキナファソ、ギニアビサウそして21年3月にはニジェールでと、クーデターが頻発したため『クーデター・ベルト』と呼ばれています。原因は政権の汚職や不正などに対する国民の不満ですが、そこにイスラム過激派が食い込み政情悪化を煽っているのです」(外信部記者)
だから今回のクーデターのように、旧宗主国を目の敵にし“反西側”のカウンターとして親ロシア感情が高まるのは、この地域では珍しい事ではない。とはいえ、周辺唯一の民主国家で西側とのパイプがあった国だけに、米・英・仏諸国は「バズム大統領を直ちに釈放せよ」と大統領の即時解放を訴え、30日には西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)とEUがニジェール新軍部への経済制裁を決議し、軍事介入の可能性もにおわせた。
ニジェールはウラン、金などの鉱物資源が豊富な国なので、政治の地政学的な転覆だけでなく、権益の面からも西側諸国としては困るのだ。
このタイミングだけにロシアの政治工作も疑われるが、今のところアメリカはその可能性を認めてはいない。だが、この地域で反西側諸国の動きが起こると、動向が注目されるのが、あの男だ。ワグネル創設者のプリゴジンである。
「ワグネルはまさにこの地域ではマリ、ギニアビサウなどに部隊を派遣し、時には戦闘に加わって活動してきた実績があります。ワグネルは現地の反政府組織を応援し、混乱に乗じて自らは鉱山資源などの利権にあずかって、組織を大きくしてきました。となれば、行き場を失っていた彼らにとって、ニジェールの混乱は渡りに船。実際、プリゴジンはワグネル系のSNSで今回のクーデターを歓迎し、支援する可能性を示しています。穿った見方をすればクーデターそのものが、ワグネルの工作によるものであった可能性すらゼロではないかもしれません」(同)
ウクライナの戦争に先が見ないところに、またまた困った火種が生じてしまった。
(猫間滋)