ワグネル・プリゴジン氏「元米兵の遺体引き渡し」で囁かれる「仰天の野望」とは

《ショイグ(国防相)はクソだ! エリート官僚のクズどもよ! お前らの子供を戦場に連れてこい! 子供が死んだら葬式に出して埋葬しろ!》

 ロシアの国防省幹部ばかりか国防相も口汚くののしるのは民間軍事会社「ワグネル」を率いるプリゴジン氏だ。同氏の国防省批判はもはや定番になった感すらあるが、プリゴジン氏によれば、ウクライナの最前線に戦闘に必要な弾薬が送られないことから、みずから戦地に送った多くの「囚人兵」が犠牲になったのだという。

 そんなプリゴジン氏が5月25日、かねて宣言していた、ウクライナ東部の激戦地バフムトからの戦闘員の撤退を開始したとSNS上で明らかにした。

「プリゴジン氏は数カ月に及ぶ戦闘でバフムトを制圧したと主張しており、ワグネルは撤退し、以降はロシアの正規軍に引き継ぐとしています。メッセージアプリ『テレグラム』でプリゴジン氏は《6月1日までに主要部分は後方の陣営に移る。陣地はロシア軍に引き継ぐ。弾薬、陣地、食料など含め全てだ!》と告げ戦闘員と握手するなど、これまでの健闘を称える様子を投稿しています。ウクライナの国防次官も、ワグネル戦闘員はまだバフムトに残っているもののバフムト郊外ではワグネル戦闘員がロシア軍兵士に交代しつつあると述べていますから、いよいよワグネル戦闘員の撤退が実行に移されているようです」(ロシアウォッチャー)

 そんな最中、プリゴジン氏が突然、米国とトルコ人の遺体を返還すると発表し、波紋が広がっている。

「プリゴジン氏がウクライナ側に引き渡したとされる遺体は、バフムトでの戦闘で死亡した米陸軍特殊部隊の元隊員と、同地でパートナーの女性と共に死亡したトルコ人男性です。プリゴジン氏によれば、元隊員は砲撃で崩落した建物に閉じ込められ、その後、ロシア軍の集中砲火で死亡したとされ、トルコ人男性も同様にバフムトの攻撃で死亡。パートナー女性の遺体を運び出すことはできなかったが、本人の遺体は母国に返還する予定であるとしています。プリゴジン氏は、米国の星条旗とトルコ国旗がかけられた2つの木棺のそばに立つ自身の写真や動画も公表しました」(前出・ロシアウォッチャー)

 とはいえ、これまでの戦いで「捕虜はとらず、すべてを殺害する」「勝利するためには手段は選ばない」とうそぶいていたプリゴジン氏だけに、いきなり手のひら返しのような「遺体引き渡し」には疑問の声もあがっている。

「プリゴジン氏は戦勝記念日にあたる5月9日、プーチンと名指しこそしなかったものの、『クソ馬鹿なジイさん』と罵ったことがあります。両氏が長年にわたり蜜月関係にあったことは周知の事実ですが、今やプリゴジン氏は『公正ロシア』のセルゲイ・ミロノフ党首に急接近し、次期大統領を目指しているという情報もあります。そのため、プーチン氏はプリゴジン氏の政治的野心と反乱を抑えるために弾薬を供給しなかったとも囁かれている。さらには、プリゴジン氏がプーチン氏を見限り、ビジネス的に好条件を提示するウクライナと手を組んで軍事クーデターに動くのでは、という噂まで出ているのです」(前出・ロシアウォッチャー)

 ロシア中枢部への隠さない不信と西側への遺体引き渡し。果たしてプリゴジン氏にはどんな思いが渦巻いているのか。今後の同氏の動きから目が離せないのである。

(灯倫太郎)

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