ワグネルが握る数千億円「巨大アフリカ利権」プーチンVSプリゴジンの駆け引き

 ロシア政府の「裏部隊」としてアフリカのマリをはじめ、中央アフリカ、リビア、スーダン、マダガスカル、モザンビークなどで活動してきたとされる、プリゴジン氏率いる民間軍事会社ワグネル。だが、今回のプリゴジン氏による武装反乱でプーチン政権との蜜月関係が破綻、今後の動向に注目が集まっている。

 軍事ジャーナリストが解説する。

「ワグネルがアフリカに派遣した戦闘員の数は約2万5000人と言われ、18カ国以上に兵士が駐留しているとみられています。元々、中東やアフリカには2010年初頭からロシアの民間軍事会社が数社進出していたものの、その時点でワグネルはまだ参戦していなかった。なので、ワグネルが本格的に兵を出し軍事介入したのは15年、シリアのアサド政権への支援がスタートだとされています。その後、プーチン氏との親密な関係をバックにして軍事介入を本格化。その後、ロシア正規軍の別動隊として、活動拠点を拡大させていったというわけです」

 17年には、北アフリカのリビアに部隊を派遣し、東部を支配する「リビア国民軍」を支援。その後はスーダンやモザンビーク、中央アフリカ、西アフリカのブルキナファソなどに部隊を出し、軍隊の訓練や警備のほか、時には反政府勢力との戦闘に加わるなど大きな役割を担ってきた。

「特にマリと中央アフリカでの活動は文字通り『死と破壊』を伴うもので、民間人の大量虐殺への関与も疑われています。ワグネルは軍事介入の報酬として、それぞれの国から金やダイヤモンド、ウラン鉱石の採掘権などを譲り受けており、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官の報告によれば、マリ暫定政権が21年以降、ワグネルに支払った報酬はなんと2億ドル(約290億円)。また米CBSは、中央アフリカでも金の取引で27億ドル(約3900億円)の収益を上げた可能性があると報じており、これが事実なら莫大な資金源だったといえるでしょうね」(同)

 そして、このワグネルの活動を裏から「国費」で支え、アフリカの諸国から得た報酬の一部をキックバックさせていた張本人がプーチン氏だったというわけである。

 当然のことながら、ロシア政府としてはこんなにおいしい利権を手放すはずがなく、プリゴジン氏の反乱収束後の先月26日、ラブロフ露外相はロシアメディアのインタビューに応じ、「ロシアとアフリカの関係でパニックや変化は一切ない。アフリカの友人たちからは結束を確認する電話をもらった」とコメント。政府としては今後、アフリカにおけるワグネルの活動を、プリゴジン氏と切り離す方向で継続させていく方針を示している。

「ただ、ワグネルはプリゴジンの会社であり、プリゴジンあってのワグネルでもある。そこを切り離すことができるかどうか。現在もアフリカ諸国にはワグネル兵士が駐留していますから、具体的に誰がどのような形で統制を取り、指示命令を与えていくのか。今回の反乱で離反した戦闘員も多いとの報道もありますから、政府の思惑通りに行くかどうかは未知数ですね」(同)

「死と破壊」で手にしたアフリカ利権を巡るプーチンVSプリゴジンの攻防戦はまだ続きそうだ。

(灯倫太郎)

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