佐藤治彦「儲かるマネー駆け込み寺」日銀・植田新総裁で金融政策はどう変わる?

 毎日のお仕事、ご苦労様です。中には病院のベッドで読んでいる方もおられると思います。もう3月、あと数週間で花見と入学、卒業、就職や転勤の季節に突入します。

 日本の金融政策のトップ、日銀総裁も4月に変わる。10年続いた黒田東彦氏(78)が退任し、新しい総裁に学者出身の植田和男氏(71)が就くことが事実上決定した。安倍政権時代に任命された今の日銀副総裁の雨宮正佳氏(67)が横滑りでトップになる見方が強かったから、驚きだった。

 でも、植田さんは今の異次元の金融緩和政策、アベノミクスを行う時の理論武装の要だった人でもある。そう聞くと「何だ、変わらないのか」と思うかもしれない。アベノミクスは10年も続いて株価だけは上がったけど、庶民の暮らしぶりは給料が下がり、この1年余りは悪い物価高にも苦しめられているのが実情だ。

 日本のインフレ率は3〜4%と報じられるが、多くはもっと上がっていると思っているはず。それもそのはず、私に言わせれば物価の測り方がおかしいのだ。

 給料が上がらなくても毎日の食品や光熱費などの節約には限界がある。一方、今、お金に困っているのなら、しばらくは我慢できるものもある。洋服、家電、家具、自家用車、旅行、観劇などの娯楽費などで、庶民は懐具合で工夫する。テレビを買うにしても、お金に余裕がなければ先延ばしにしたり、50インチを我慢して40インチの安いものにするか、となる。つまり、毎日必要なものとそうでないものを全部まとめてインフレ率を計算するから、庶民感覚とズレるのだ。

 今の値上がりは、毎日必要な食品や光熱費が中心で、生活を直撃している。生活に必要不可欠なものは1〜2割以上も上がっている。電気やガスなどは3〜4割も上がった。この春からさらに上がる。そこを今の政治家も日銀総裁もわかっていないと思うね。

 話を戻そう。

 植田総裁ではアベノミクス路線は変わらないのか?と言われると少し変わる。これが今の世間の大方の見方だ。それは今の黒田さんは30年前にもてはやされた「貨幣の流通量が物価を決める」という考え方に固執した人。だから、どんどんお札を印刷して世の中に流通させた。

 だけど上がったのは株価だけ。一方、植田さんは「物価は需要と供給によって決まる」という考え方の人と言われる。だから今の金融政策を少しずつ修正していくはずで、必要であれば金利も上げていくと思う。

 こんな小難しいことを取り上げた理由は、それこそが私たちの生活や、先週ここで書いた株式投資にも影響するからだ。

 私はさらに中央銀行の独立性を取り戻してほしいとも思う。今の黒田総裁は永田町と距離が近すぎる。政治のご都合で金融政策を決めてほしくないのだ。

 黒田さんは政治の求めもあり、日銀の帳簿を大きく毀損した。これを修繕する必要もある。ただ、急に取りかかると市場が荒れる。だから、少しずつ丁寧にやっていくしかないから大変だ。 

 日本経済に大きく影響を与えることをもう一つ。それは1年過ぎたロシアのウクライナ侵攻だ。まだ先行きは見えないものの、これもいつかは終わる。戦争が終わればウクライナだけでなく、ロシアも立て直しが必要で、大きな経済協力が必要になる。

 30年ほど前のソビエト崩壊後のロシア経済が困窮した時だけ、北方領土交渉は進んだ。ウクライナ戦争後のロシアなら前進の可能性もあるはずだ。

 そのための下準備は今から動いておく必要がある。平和と経済を合致させ、日本の国益を勝ち取ってほしい。くれぐれも強権国家の中国にしてやられることだけにはなってほしくない。

 中国の危うさはロシアも重々わかっているはず。どうか、うまく立ち回って日本経済に大きな桜の花を咲かしてほしいと思うのだ。

佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活動中。著書「おひとりさまが知って得する、お金の貯め方・増やし方」(ぱる出版)ほか多数。

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