佐藤治彦「儲かる“マネー”駆け込み寺」“世界同時AI化”に抗うために私が実践していること

 スーパーマーケットで買い物をした際、急いでいなければ、必ず有人レジで会計するようにしている。気持ちよく対応してくれるスタッフや、無愛想な人もいるなど様々だ。どうせ同じ価格で購入するなら、無人レジに商品のバーコードをかざして、コンピューターが読み込む値段が正しいかを確かめるのではなく、プロのレジ打ちスタッフに任せたい。

 定期購読している新聞は、クレジットカードでも支払うことができて便利なことこの上ない。クレジットカードで払えばポイントも付く。それでもあえて、毎月、集金する人に家に来てもらって現金で支払いをしている。今の時代、新聞は電子版もあり、紙に比べると環境にも優しいし、時には紙に印刷されたものよりも安い。

 ところが宅配の場合、急に激しい雨が降った日などは、新聞の端が少し濡れていたりもする。原稿を書いている時に集金の人がやって来て執筆を中断されることもある。はて、何を書きたかったんだっけ? などと漫画のようなことも起こる。

 それでも新聞は配達してもらって、集金にも来てもらうことにしている。若い頃、新聞配達の仕事があるおかげで奨学金制度を利用でき、進学やプロスポーツ選手を目指す人などが住まいと食事、学費などを出してもらいながら未来に向かって頑張っている姿を山ほど見てきた。中には「親の暴力から逃れたかったので、1日でも早く独立したい」と新聞配達を頑張り、実現させた若者もいた。

 当時と比べると新聞を取る人は激減し、独自色にあふれる新聞媒体もあるけど、権力に対して忖度しないメディアが減ってしまっては面白くない。新聞配達やレジを打つというアナログな仕事によって、雇用が生み出されていることも確かだ。

 もちろん、時代と共に世の中は変化していく。それは致し方ない。それでも私はアナログな方を選びたい。なぜなら、新聞配達やレジに人手がいらなくなればなるほど、会社側は働く人のシフトを減らしていくのは明らか。なので、そこで働く人の仕事を減らさない側にいたい。AI時代に微力ながら、あらがってみたいのだ。

 駅や公共の場からゴミ箱がなくなって久しい。完全になくなったわけではないけど本当に減った。最初はG7サミットが東京で開かれるので、その時にテロに使われる可能性が否定できない、として一時的に利用を制限するところから始まった。それからだんだんゴミ箱は減っていった。

 JRなどは駅中にコンビニがあり、ゴミの出る商品を山ほど売っていても、店の周りにゴミ箱はない。すべてお持ち帰りくださいというわけだ。ゴミ箱がないのだから、ゴミを回収する仕事も減ってしまった。

 日本代表が海外のスタジアムなどで国際A級マッチをした後、日本人応援団はスタジアムで出たゴミをすべて回収してから立ち去ると、国際的にも評判がいい。今ではホウキとチリトリで掃除までする人たちも出てきた。ゴミを持ち帰るだけでなく、観客みずから無料で掃除をしてくれるのだから、スタジアム側は大いに喜ぶだろうと思う。

 ただ、これが定着すると、日本の試合がある時は、試合後の清掃スタッフの人員を減らしかねないと思ってしまう。10万人単位で入るスタジアムなので、後片づけのスタッフは何百人もいて、それで生計を立てている人もいるのではないか。つい気になってしまう。

 最近の私は適度にだらしなくいくことに改めた。例えば新幹線に乗った時、持ち切れないほどのゴミがある場合は、デッキのゴミ箱と自分の座席を何往復もするのではなく、少し残していくことがある。あまり鉄壁にやりすぎない。それは時に、誰かの仕事を奪ってしまっているのではないかと思ってしまうのだ。

 もちろん、少し考えすぎだとは思っているが。

佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。8月5日に新刊「新NISA 次に買うべき12銘柄といつ売るべきかを教えます!」(扶桑社)発売。

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