今季のDeNA補強の最大の目玉であり、リーグ優勝への切り札と期待されたトレバー・バウアー投手が、深刻な不振にあえいでいる。7月16日の広島戦で手痛い5連敗を喫し、早くも8敗目。6回4失点という内容は、総額9億円とも言われる年俸に見合うものとは到底言えない。
本人が「なかなか結果にならない」と肩を落とすように、投球内容も全盛期には程遠い。三浦大輔監督は「よくなりつつある」とかばう姿勢を見せるが、ここまで来ると投資判断の失敗と断じられても仕方がないだろう。
次なる一手は元阪神・藤浪という大博打
バウアーの誤算を受け、DeNAフロントが打った次の一手が、元阪神タイガースの藤浪晋太郎投手の獲得である。年俸5000万円(推定)で契約は今季終了までという条件ではあるものの、かつて大洋ホエールズのエースだった平松政次氏の背番号「27」を用意するなど、その期待の高さがうかがえる。
しかし、この補強もまた、大きなリスクをはらんだ「賭け」であることは否めない。藤浪がポテンシャルの高い投手であることは誰もが認めるところだが、制球難という長年の課題を抱えているのも事実だ。機能不全に陥った大型補強の穴を、別のハイリスクな補強で埋めようとする手法には、戦略的な一貫性が見えにくい。
南場智子オーナーが「できることは全部やって!」とGOサインを出しているように、資金力は豊富だ。だが、その資金が効果的に使われているかには疑問符が付く。バウアーに続き、藤浪という個性の強い投手を現場は本当に望んでいたのか。トップダウンの補強が、かえってチームのバランスを崩している可能性はないだろうか。
問題の根源は現場か、フロントか
補強に「?」が付くなか、問題の根源として浮かび上がってくるのが、球団の編成部門の在り方だ。DeNAのチーム編成を統括するのは、萩原龍大チーム統括部長である。萩原氏はプロ野球経験がなく、DeNA本社からの出向という経歴を持つ。
選手獲得からコーチ、スタッフ人事に至るまで絶大な権限を持つが、プロ野球の現場感覚がどれだけ反映されているかは不透明だ。「本社は萩原本部長に全幅の信頼を置いているが、三浦監督が本当に希望した補強になっているかは定かではない」という声も漏れ聞こえる。
結局、結果が出なければ責任を問われるのは監督や選手といった現場だ。しかし、その前提となるチーム作り、つまり人材獲得の段階でミスマッチが起きていれば、現場がいくら奮闘しても限界がある。専門性の高いプロスポーツの世界において、ビジネスサイドの論理だけで編成が進むことへの危うさがここにある。
バウアーにモノが言えず、今度は藤浪を獲得する。この一連の流れは、DeNAの補強戦略が迷走していることを示しているのではないか。今季、もし浮上できずにシーズンを終えるならば、その敗因は現場のパフォーマンス以前に、「補強の大失敗」というフロントの責任問題に帰結するだろう。これは、あらゆる組織における人材戦略と現場の連携の重要性を物語っている。
(小田龍司)