私は30代の初めに独立してから、フリーランスとして1人で仕事を受けて暮らしてきた。もう30年以上いろんな人の世話になってきたわけだ。
しかし、理不尽でひどい扱いをされたこともある。企業や人にダマされたり、最近でもうんざりするようなことが仕事上であった。長年、会社に勤めている人でも「勘弁してくれよ」というような扱いを受けた方もいるだろう。
これから働いていく上で知っておきたい法律が登場した。11月1日に施行された「フリーランス新法」である。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」。
何でこんなややこしい正式名称をあえて書いたかというと、この長ったらしい正式名称に、法律の根幹の部分が現れているからだ。
総務省調べ(22年)によると、フリーランスが本業だという人は209万人。有業者、収入を得ることを目的として普段から働いている人の3.1%に達する。今は副業を持つ人も少なくないから、非常に多くの人に関わる法律だし、仕事を発注する側にとっても重要なので、今回は法律の肝になる部分をわかりやすく紹介したい。
法律上、フリーランスは「特定受託事業者」と呼ばれる。従業員を雇っていないけれども、法人格を持ち会社としている一人法人、もしくは、個人が仕事を受ける場合も対象となる。一人法人や個人という弱い立場で働く人の保護が一歩前進したと言える。
仕事を発注する側には、次のような7つの義務が課せられる。ちょっと堅苦しいが我慢して読んでほしい。
(1)【取引条件の明示】業務の内容や報酬の額、支払期日など、取引条件を書面やメールで直ちに伝える。
(2)【報酬の支払】報酬の支払期日の設定や期日内の支払義務。支払は商品を受け取った日から60日以内。
(3)【7つの禁止行為】。受領拒否、報酬の減額、物品や成果物の返品、買いたたき、フリーランス側に責任がないのにやり直しをさせる、物品購入やサービスの利用などを正当な理由なく強制する、不当な経済上の利益の提供要請。
(4)【募集情報の的確表示】募集広告で虚偽の内容や誤解を招く表現はNG。
(5)【育児介護等と業務の両立】育児や介護と業務が両立できるように配慮。
(6)【ハラスメント対策】セクハラやパワハラ対策に係る体制の整備。
(7)【中途解除等の事前予告】6カ月以上の継続契約で、途中解除や契約更新を停止する際は原則30日前までに予告。
こういった7つの義務が法制化されたのだが、フリーランスに仕事を発注する側もフリーランスという場合もある。だから発注者により義務の範囲が異なる。
例えば(1)に関しては発注側が個人や一人法人でも義務。従業員を雇っている事業者は(1)(2)(4)(6)が義務。さらに一定の期間以上の業務委託がある場合、1カ月以上の場合は(3)が加わり、6カ月以上の場合は7つすべてが義務となる。これは契約更新などで継続する場合も含んでいる。
さて、法律ができても実際に守ってくれなければ仕方がない。トラブルを抱えた際は、第二東京弁護士会が開設している無料の相談窓口「フリーランス・トラブル110番」(0120-532-110/土日祝を除く9時30分~16時30分)に電話をかけるか、メールでも相談できる。
また、11月から任意で労災保険にも加入できるようになった。給付が受けられるのは通勤中や業務上のケガや病気に限るが、フリーで配達などの仕事をしている人は保険料率が0.3%と高くないので、入る価値はあるかもしれない。
ちなみにこの連載、ずーっと前にきちんと書面で契約を交わしたいと編集部から連絡があった。長年いろんなところで執筆してきたが、初めてだったのでビックリした。法律は完全でなくても知っていると力になる。気になる人はこのページを切り取って保管しておいてほしい。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。8月5日に新刊「新NISA 次に買うべき12銘柄といつ売るべきかを教えます!」(扶桑社)発売。