「この大会を実現するとの決意のもと、準備を進める」
菅義偉総理が1月4日の年頭記者会見でこう述べ、自民党の二階幹事長が数日後の会見で「党として開催促進の決議をしてもいいくらいだ」と後押ししたのは東京五輪開催についてだ。この件については、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長も1月12日の年頭のあいさつで、
「あくまでも淡々と予定通り準備を進めていく」
と、組織委員会の職員に呼びかけた。
共通するのは“開催ありき”の姿勢だ。確かに弱腰も困るが、開催地の東京都で連日1000人を超える新規感染者が出て拡大に歯止めがかからない状況。そうした危機的状況から目をそらしたくなる気持ちもわかるが、ただただ「やる」の一言では、「じゃあ、根拠は?」と聞き返したくなるというものだ。二階幹事長に至っては、“強気”のメッセージというより、質問を許さぬといった高圧的な態度さえ伺える。
遅きに失した緊急事態宣言という後手後手の政治家の対応に、1年遅れの五輪イヤーの幕開けというタイミングもあって、「内外」から五輪開催を不安視する声が高まっている。
話題になったのが、1月7日のスポーツニッポンの紙面。《21年も五輪危機》との大見出しで、なんと1面から3面までブチ抜きの大特集を組んだ。
なぜこれが大きな話題になるかと言えば、
「普通、スポーツ新聞は身内のスポーツ界にとって不利になるようなことは書かないからです」と解説するのは、競合スポーツ紙の記者。続けてその理由を語るには、
「開催に否定的な記事を掲載すれば組織委員会を敵に回すことになって自社のメリットになりませんからね。特に五輪ともなれば大手広告代理店やスポンサー企業との絡みもありますから、忖度するのが普通。ところが、組織委員会関係者から漏れ出た情報として記事が書かれている。委員会の中で大きな温度差が生まれているのではないでしょうか」
こちらは内部の声だが、まさに内憂外患。外部からも不安の声が…。
同じ7日に、IOCの中でも最古参のカナダの委員が英国BBCの取材に、「確信がない。誰も語りたがらないがウイルスの拡大は進行中だ」と述べたとの報道が、8日になって日本にも伝えられた。
昨年12月中にNHKが行ったアンケートでは、開催すべきが27%、中止が32%、延期が31%だったという。アンケート時期は12月11日からの3日間。東京の新規感染者がまだ1000人を下回っていた頃だ。その後、年明けに2000人を超えるとは想像すらしていなかったはずだ。
第3波は人災だとの見方もある一方、政府の要人は何の根拠も示さずに「開催」を口にするだけ。笛吹けど踊らずなんてことにならなければ良いが。
(猫間滋)