トランプ大統領が2025年4月2日から輸入自動車に一律25%の関税を課す方針を打ち出したことは、日本の自動車産業に未曾有の危機をもたらす恐れがある。アメリカは日本車にとって最大の輸出市場であり、トヨタ、日産、ホンダといった大手企業がその影響を直撃的に受ける。この関税が発動すれば、収益の急減、株価の暴落、雇用の喪失、そして下請け企業への連鎖的な打撃が現実となるだろう。
まず、トヨタへの打撃は大きい。アメリカで年間約230万台を販売し、そのうち約53万台が日本からの輸出だ。現在の関税率2.5%が25%に跳ね上がると、1台あたり数十万円のコスト増が発生する。例えば、400万円のカムリなら関税だけで約100万円が上乗せされ、利益を大幅に超える赤字に陥る。値上げすればアメリカでの競争力が落ち、現地生産を増やそうにも巨額の投資と時間がかかる。アメリカの人件費は高く、短期間での生産移管は困難だ。収益基盤が揺らげば株価は急落し、投資家の信頼が崩れるリスクが極めて高い。
日産の状況はさらに絶望的だ。メキシコで61万台を生産し、その約4割をアメリカに輸出しているが、メキシコからの輸入にも25%関税が適用される。コスト急増は避けられず、すでに業績不振の日産には耐える体力がないかもしれない。24年度の営業利益は低迷しており、値上げで販売台数が減るか、利益を削り赤字を膨らませるかの二択しかない。アメリカ市場でのシェア縮小は避けられず、経営危機が加速する。最悪の場合、リストラや工場閉鎖が現実となり、日本国内の雇用にも深刻な影を落とす。
自動車産業の裾野の広さも見逃せない。1台に約3万点の部品が使われ、鉄鋼、ゴム、電子部品産業が連動する。関税で生産が縮小すれば、下請け企業の受注が激減し連鎖倒産のリスクが急上昇する。経済産業省の試算では、自動車生産が1兆円落ちると製造業全体で3兆円の損失が生じる。地方の中小企業は特に脆弱で、雇用の喪失が地域経済を直撃するだろう。日本経済全体が冷え込むリスクは、もはや現実的な脅威だ。
市場の反応も深刻だ。関税発動のニュースでトヨタや日産の株価は下落し、投資家の不安が広がっている。円高圧力が加われば、輸出企業の収益はさらに悪化する。トランプ大統領の予測不能な政策は報復関税の応酬を招く恐れもあり、貿易戦争が勃発すれば日本車の輸出市場は壊滅する。新市場開拓が必要だが、それには時間とコストがかかり、即座の対応はほぼ不可能。日本経済は非常に厳しい時代に入った。
(北島豊)