産経新聞が1月19日に報じた北朝鮮労働者による中国での暴動騒ぎによって、海外で働く北朝鮮労働者のあまりにも劣悪すぎる実態が明らかになり、波紋を広げている。
記事によれば、中国東北部・吉林省の工場で働いていた北朝鮮労働者が、賃金不払いを理由にストライキを起こしたという。さらには工場を占拠し、北朝鮮の幹部を人質に取って機器を破壊するなどの暴動を起こしたのである。北朝鮮ウォッチャーが語る。
「産経は、元北朝鮮外交官の高英煥氏の報告書をもとに報じました。それによれば、暴動が起こった工場は複数あり、規模は数千人に達したとされています。北朝鮮はすでに30年以上にわたり、ロシアや中国などへ労働者を送り出していますが、韓国当局の推計によれば、こうした北朝鮮の労働者の数は金正恩政権下で数万人に激増しており、彼らの労働力は年間数十億ドルに達するとされます」
ところが、彼らは休暇もなく1日15時間以上の労働を強いられ、賃金の6割以上を幹部に中抜きされて、その上で年間約8000ドルに上る金政権への「上納金」を納めなければならないという。こうして彼らが稼いだ外貨の多くは、核兵器やミサイル開発の大きな資金源になっていると言われている。しかも、
「労働者は、お互いに監視するため、3、4人のグループでの生活が義務付けられます。本国に家族を人質として残し、韓国へ逃亡させないよう、パスポートも取り上げられるといいます。また、手紙を含め、会話のやり取りなどが逐一チェックされる。彼らの手取りは日本円で3万円程度ですが、それでも本国と比べて、住む場所と食べ物があるだけでマシ、という状況です」(前出・ウォッチャー)
今回の暴動はこうした過酷な環境に加え、北朝鮮側が労働者に本来支給されるはずの賃金を、「帰国する際に一括して支払う」として先送りし、実際は「戦争準備資金」として本国に送金していたことに端を発したとされる。
「北朝鮮に帰国しようにも、貯まっていたはずの賃金が国によって『詐取』されていた実態が明らかになり、騒動に火がついたようです。ただ、中国国内とはいえ、北朝鮮の国民が数千人規模の暴動を起こすなど、前代未聞の大事件です。実際、この事態を重く見た北朝鮮は暴動を『特大型事件』と指定し、現地の領事館職員や国家保衛省要員を急派し、賃金の即時支払いを約束するなどして収拾を図ったとされています。ただ、一度、暴発した労働者たちが今後も黙って劣悪な環境に従うかどうか…」(前出・ウォッチャー)
北朝鮮側は暴動が他の地域に拡散しないよう情報統制を敷いているというが、中国やロシアでは、北朝鮮よりはるかに情報は手に入れやすい。暴動がさらに拡大する可能性も指摘されているのである。
(灯倫太郎)