米朝首脳会談「4回目」はあるか…トランプ政権で“対金正恩”政策が始動

 第2次トランプ政権が発足して2カ月が過ぎたが、北朝鮮に対する具体的な動きはほぼ見られない。トランプ大統領は選挙戦中、「アメリカ第一主義」を掲げ、国際的な紛争への介入を最小限に抑えつつも、国の安全保障を最優先にすると主張してきた。北朝鮮に関しては、過去の第1次政権(2017~2021年)での経験が今後の政策に大きな影響を与えると予想される。特に、2018年と2019年の3度にわたる米朝首脳会談を通じて金正恩総書記と直接対話した実績は、トランプ氏にとって外交的手腕の象徴である。しかし、これらの会談は核問題の解決には至らず、北朝鮮の核・ミサイル開発はむしろ進展している。この現状を踏まえ、第2次政権での北朝鮮政策は、過去の成果と課題を基にした現実的なアプローチが求められよう。

 まず、トランプ政権が直面する北朝鮮情勢は、第1次政権時よりも複雑化している。北朝鮮は核戦力の増強を進め、2025年2月には米韓合同軍事訓練への反発として、核・ミサイル開発を正当化する談話を発表した。また、米国の情報機関は、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の技術を向上させたと報告しており、米国本土への脅威が高まっている。この状況下で、トランプ氏は単なる軍事的圧力や制裁強化に頼るのではなく、独自の「取引外交」を展開する可能性が高い。第1次政権では、北朝鮮との交渉で経済的インセンティブを提示し、非核化を促そうとしたが、金正恩氏が核兵器を手放す意思を示さなかったため失敗に終わった。今回は、こうした経験を活かし、より具体的な条件を提示する戦略が予想される。例えば、北朝鮮が核実験やミサイル発射を凍結する場合に限定的な制裁緩和を提案するなど、段階的なアプローチが考えられる。

 一方で、トランプ政権内部の対北朝鮮強硬派の存在も見逃せない。大統領補佐官(国家安全保障問題担当)のマイク・ウォルツ氏や、国務長官のマルコ・ルビオ氏は、いずれも対中・対北政策でタカ派として知られている。彼らの影響力が強まれば、交渉よりも圧力重視の政策が採用される可能性がある。しかし、トランプ氏自身が予測不可能な交渉者としてのイメージを重視しているため、強硬派の意見をすべて採用するとは限らない。むしろ、米中関係の改善を優先し、北朝鮮問題を中国に委ねる形で間接的に対処するシナリオも考えられる。これは、トランプ氏が2月26日に台湾有事について問われ「米中関係はとても良くなる」と発言したことでも示唆される。

 さらに、日米韓の連携も重要な要素である。第1次政権では、在韓米軍の駐留経費負担を韓国に強く求め、米軍の役割見直しを示した経緯がある。日本に対しても次期駐日大使は駐留費用の負担増に言及し、米政府は在日米軍の強化中止も検討しているとされる。日米韓の結束に亀裂が生じれば、北朝鮮のミサイルが直接的脅威となるため、トランプ政権がどのような姿勢を取るかが注目される。現時点では具体的な動きは見られないものの、2025年中に北朝鮮との首脳会談が再び実施される可能性も否定できない。その場合、拉致問題を含む日本の国益をどう交渉に反映させるかが、石破政権にとっての課題となる。

 トランプ政権の対北朝鮮政策は、過去の交渉経験を踏まえた現実的な取引外交と、強硬派の圧力路線との間で揺れるだろう。2カ月間の静寂は、政権内部での戦略調整期間と見るべきであり、今後数カ月で具体的な動きが顕在化するだろう。北朝鮮の挑発次第では、軍事的緊張が高まるリスクもあるが、トランプ氏のディールメーカーとしての特性を考慮すると、対話を通じた解決が優先されると予測される。

(北島豊)

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