北朝鮮船と中国船の衝突事故が闇に葬られる「中国政府の都合」

 3月13日、韓国の聯合ニュースが、2月下旬に黄海上で北朝鮮の貨物船と中国船とが衝突し北朝鮮船籍が沈没、船員15~20人が死亡したとみられる、と伝えた。報道によれば、両船籍がぶつかったのは朝鮮半島西側の黄海。北朝鮮の貨物船は濃霧で視界が悪いにもかかわらず、制裁逃れのため位置情報などを発信する船舶自動識別装置(AIS)を切った状態で航行。中国船の接近に気付けず衝突につながった可能性が高いとされている。

 北朝鮮ウォッチャーの話。

「韓国情報筋によれば、北朝鮮の貨物船が積んでいたのは密輸した石炭で、これは国連安全保理が北朝鮮制裁により禁じているもの。おそらくは洋上で荷物を船から船へ積み替える『瀬取り』による積み荷だと推測されるものの、衝突により船もろとも海底に沈んでしまったようです」

 ところが、報道を受けた中国外務省の毛寧報道局長は13日の記者会見で、「事故が起きたかどうかについては担当部門に問い合わせることを勧める」として確認を避けた上で「中国は一貫して法律と規則に基づいて海洋関連の事務を処理している。人道主義の原則や国際慣例にのっとって海難事故や捜索・救助に対応する」との説明に留めたのである。

「事故が発生した中国南東部の西海水域は、北朝鮮の貨物船が石炭密輸出によく利用するルート。ただ、北朝鮮船舶は位置・速度などを信号で探知されないため、大半の船がAISを消して航海している。2017年3月にも、それが原因で中国南東部江蘇省連雲港沖で中国船と北朝鮮船籍が衝突して沈没。幸い船員が全員部救助され、この時は中国交通省も海難事故があったことを発表しているんです。ところが今回は、20人もの死者が出ているのに中国側は事故があったことすら明確に認めていません。そんなことから、理由について様々な憶測が流れているようです」(同)

 消息筋や専門家などの見解を報じた聯合ニュースによれば、この事故を認めると、中国側が制裁違反を黙認している、あるいは取り締まりを徹底できていないことが露呈するため、事故そのものがなかったように隠ぺいしたのではないか、と伝えている。

 中国政府による「事故隠ぺい」というと思い出すのが、11年に起こった中国東部・浙江省温州市での高速鉄道事故で、死者40人、負傷者200人余りを出した。ところが、この高速鉄道が中国が世界に向け「独自技術による高速鉄道システム」と誇る肝いりだっただけに、原因究明などそっちのけ。事故の翌日早朝には、解体した事故車両を地中に埋め込むなど、証拠隠しと思わざるを得ない現場処理が行われたことに、世界から批判の声が注がれた。

「中国で政府に都合の悪いことが全て隠ぺいされるのは、よく知られる話。とはいえ今回の海難事故でも多くの人命が失われている。事故そのものがなかったとして片づけることは人権という見地からしても大きな問題と言わざるを得ません」(同)

 昨年6月、来訪したプーチン大統領との間で「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結し、軍事同盟を復活させた北朝鮮。結果、中ロ朝3国間の関係は中国に不利な形でバランスを崩し、それが中国をいら立たせてきた。そんな中、北朝鮮の密輸取り締まり強化を掲げていた中国が、もし北朝鮮との間で物資を「瀬取り」していたとなれば、国際社会に対しメンツは丸潰れとなる。船が沈んでしまった以上、何が積み荷だったかわからないが、この海難事故も先の鉄道事故同様、真相は闇に包まれていくのだろうか。

(灯倫太郎)

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