北朝鮮が平壌マラソン6年ぶり再開も抱える「観光儲け」と「情報漏洩」のジレンマ

 北朝鮮が新型コロナ感染拡大で中断していた平壌国際マラソン大会を4月6日、6年ぶりに再開。青空の下、外国人ランナーら約200人が平壌の街を駆け抜けた。

 このマラソンは建国の指導者、金日成主席誕生を祝い1981年にスタート。毎年4月に開かれていたが、2020年の新型コロナウイルスによるパンデミックで、北朝鮮は国境を封鎖。同年以降は開催中断を余儀なくされていた。

 朝鮮中央通信によれば、今回のマラソンは金日成競技場で開幕式を行った後、凱旋通りから友誼塔へ入り、平壌大劇場、万景台学生少年宮殿など平壌の主要地点を巡回するコースで、中国やルーマニア、モロッコ、エチオピア国籍の選手ほか「世界のさまざまな国や地域から来たマラソン愛好家(同好人)が参加した」と伝えている。

「海外からのマラソンツアー参加者は、中国・北京の旅行会社『高麗ツアーズ』で、北京と平壌の往復航空券を含む6日間のマラソンツアー料金(約35万円)を支払い大会に参加しています。当初、コースには平壌総合病院が含まれていなかったようですが、『政治功績施設として対外的に宣伝になる』との金正恩総書記による鶴の一声で急遽コースに加えられたとか。正恩氏もこのマラソンで外貨獲得と観光客誘致が同時にできるとあって、大会成功に向け詳細に注文を付けるなど、積極的な姿勢を見せていたと伝えられています」(北朝鮮ウォッチャー)

 北朝鮮が新型コロナ関連の制限を緩和し始めたのは23年半ばになってから。当初はロシア人や一部西側の人々に向けたツアーのみだったが、今年2月、西側の観光客にも間口を広げ、正恩氏ご自慢の東部特別市「羅先」(ラソン)に入ることを許可するなど、積極的なインバウンドが話題になったものだ。

「韓国メディアは、コロナ前の19年、北朝鮮へは約30万人の外国人観光客が訪問し、その際に北朝鮮が得た外貨収入は1億数千万ドルだったと推算しています。そんな過去もあり、今後はなんとして観光事業を拡大していきたいとの思いがあることは間違いありません」(同)

 ところが、スマホでの動画撮影やSNSでの配信が当たり前となったこの時代。海外からの観光客を受け入れることで、厳しい規制は敷いているものの監視するマンパワーにも限界があり、結果「秘密のベールに包まれた謎の独裁国家」の映像が次々にネット等にアップされる事態に。結果、西側観光客の受け入れが3週間中断されたことがあった。

「基本的に北朝鮮のネット環境は自国の回線のみの利用のため、一般の人々が外国人が撮影した映像を目にすることはありません。しかし、北朝鮮でもネットに詳しい人間はごまんといる。そんな彼らがもし西側観光客が撮影した、北朝鮮内の劣悪な環境や餓死寸前の国民の姿を目にし、その映像が拡散されてしまったら…。最悪、プロパガンダによって押さえつけてきた体制崩壊が一気に加速することも否定できない。韓国メディアでは『羅先ツアー』突然の中止には、北朝鮮が抱えるそんな裏事情があったのではないかと伝えています。つまり、外貨獲得のための観光事業拡大と秘密厳守は『もろ刃の剣』だということです」(同)

 いまや、世界の人々が周知する「北朝鮮兵士によるウクライナ戦争への派兵」さえも、当局により、その事実さえ市民に伝えられていないこの国で、これまで通り情報を統制することができるのかははなはだ疑問。ともあれ、ウクライナ戦争を終結をにらみ外貨獲得とPRに向け躍起だとされる金正恩政権の行方が気になるところだ。

(灯倫太郎)

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