金正恩が「ロシア派兵追加」の裏で何とかしたい「こじれた習近平との関係」

 朝鮮戦争をともに戦い、かつては「血で固めた友情」を誇る盟友関係にあった北朝鮮と中国。しかし、近年の北朝鮮によるロシア傾斜により、両国の間で吹く「隙間風」は激しさを増すばかり。現在ではその関係も相当冷え切った状態にあるとされている。

 そんな中、韓国軍合同参謀本部が3月27日、北朝鮮がロシアに対し今年1~2月に3000人以上の追加兵士派遣を行っていたと発表。同本部によれば、北朝鮮は昨年10月からロシアに1万1000人を派兵。うち約4000人が死傷したと伝えられ、この発表が事実なら、北朝鮮はトータルで1万400人以上の兵士をロシア派遣したことになる。

 北朝鮮ウォッチャーの話。

「韓国国情院が発表した資料によれば、戦場に派遣された北朝鮮兵士の給料は2000ドル。しかし、『東亜日報』などの韓国メディアは、兵士らは2000ドルの給料のうち、4分の3にあたる1500ドルを北朝鮮当局に上納しているため、実際手元に残るのは500ドル程度だと伝えています」

 結果、そこで得た莫大な外貨が「将軍様」こと金正恩氏の懐に入り、それが核開発を含む政権の体制維持に使われているというわけだが、北朝鮮とロシアとは昨年6月、事実上の軍事同盟にあたる「ロ朝包括的戦略パートナーシップ条約」を締結。国情院によると、以前、北朝鮮は書簡でプーチン大統領を「閣下」と呼んでいたようだが、近年は「同志」と呼び、そこからも両国の関係性が大きく変わったことが窺い知れるとしている。

 そんなことから、5月9日にモスクワの赤の広場で開催される「対ナチス・ドイツ戦勝80周年記念パレード」への正恩氏「モスクワ招待」が注目されている。

「第2次世界大戦で世界最大となる約2700万人の死者を出したソ連(現・ロシア)は、毎年この日に勝利を祝う習慣があるのですが、今年は戦勝80周年という節目の年。実は10年前の70周年の時も、正恩自身はモスクワに行く気満々で、4月には先遣隊をモスクワに派遣。北朝鮮側は軍事パレードの際、正恩の席をプーチンの隣席にしてほしいなど、あれこれ提案しています。しかし、ロシア側からの答えはNO。結果、訪ロ計画は実現しなかった。ところが、それから10年たって北朝鮮の立場は大きく変わり、今では兵士と武器弾薬を提供してくれる『最大の盟友』となったというわけです」(同)

 となれば、当然プーチン氏も招待するはずで、正恩氏もモスクワを訪問したい。しかし、ここで問題なのが中国の存在だという。

「ロシアと中国はBRICSのみならず、経済面でも最大の協力関係にある国。プーチンとしては5月のイベントには当然、中国の習近平にも出席してほしいと考えているはず。しかし、中朝の間で隙間風が吹いている中、自分の判断で両者をモスクワに呼ぶことは難しい。そこで、2月にショイグ前国防相を北京に送り習近平と会談。返事をもらった後、3月に平壌で正恩にその旨を伝えたと考えられます」(同)

 そんな動きを受けてかどうかはわからないが、北朝鮮では2月から中国と北朝鮮の国境に流れる鴨緑江にかかる橋、新鴨緑江大橋の工事を再開。さらに北東部の経済特区・羅先地域への中国団体客の受け入れを積極的に推進している。

「北朝鮮としては、モスクワでの3者会談を経て、なんとか中国との関係を元に戻したい。ただ、国際社会に対してのメンツを気にする習近平が、国連安保理から制裁を受ける北朝鮮との関係をすんなり改善するかどうかはわからない。いずれにせよ5月には両国の間でなんらかの動きがあるはずです」(同)

 はたして、現代版「スターリン・毛沢東・金日成」会談の行方やいかに。

(灯倫太郎)

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