米国のトランプ政権が、在韓米軍の一部撤収を検討しているとの報道が波紋を呼んでいる。米国防省と在韓米軍は否定したが、事実であれば朝鮮半島の軍事バランスに大きな影響を与え、地域の緊張をさらに高める恐れがある。
2025年1月に発足したトランプ政権は、「アメリカ・ファースト」の立場から同盟国に対する防衛費負担の見直しを再び提起しており、在韓米軍をめぐる駐留経費の増額を韓国政府に強く求めている。トランプ大統領は選挙戦中から「米国が過剰な防衛負担を強いられている」と主張し、在韓米軍の規模縮小や撤収を示唆してきた。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、約2万8500人が駐留する在韓米軍の一部、4500人をインド太平洋の他の地域に移す案が議論されているという。
在韓米軍は、朝鮮戦争休戦協定以降、北朝鮮に対する抑止力として不可欠な存在であり、韓国との合同軍事演習を通じて地域の安全保障を支えてきた。
しかし、米軍の撤退が現実となれば、この抑止力が低下し、北朝鮮が大胆な軍事行動に出る可能性が高まる。近年、北朝鮮は核兵器や弾道ミサイルの開発を加速させており、米軍の縮小は金正恩政権に「戦略的空白」を与える危険があると指摘されている。
専門家の中には、「部分的な撤退であっても、北朝鮮はそれを米国のコミットメント低下と捉え、軍事挑発をエスカレートさせるだろう」と警告する声もある。特に、短距離ミサイルの発射や局地的な挑発行為の頻発が懸念されている。
韓国政府は「米韓同盟は揺るがない」との立場を繰り返すが、国民の間では不安が広がっている。多くの韓国人は在韓米軍の駐留継続を支持しており、基地周辺地域では経済や雇用への影響も不安視されている。
米国の影響力が朝鮮半島で弱まれば、中国やロシアがその空白を埋めようとする可能性がある。地域の軍事バランスが崩れた場合、偶発的な衝突が大規模な紛争に発展するリスクも否定できない。
今後の米韓間の交渉次第ではあるが、トランプ政権の決定は北東アジアの安全保障環境に重大な影響を及ぼす。国際社会は、地域の安定を維持するための外交努力をいっそう強化する必要があるだろう。
(北島豊)