「プリゴジンは死んでいない」プーチンをイラつかせる“英雄生存説”とその根拠

 あの男の“亡霊”がプーチン大統領をイラつかせているのか?

 8月23日、自家用ジェット機の墜落で死亡したワグネルの創業者プリゴジン氏。先月29日には出身地サンクトペテルブルクで家族らによる密葬が執り行われ、これで3月に勃発した反乱劇に、ようやく幕が降ろされたと思われていた。

 ところが、ロシアの独立系世論調査機関「レバダ・センター」が9月1日、今回のジェット機墜落についての国民の意識調査を発表。意外な結果が出ていたことが明らかになった。

 レバダ・センターは、プーチン政権とは一線を画し、西側からもその精度については一定の評価がある調査機関。同社がロシア全土の約1600人を対象に聞き取り調査(8/24〜8/30)を行ったところ、死亡原因についてはトップが26%の「不慮の事故」で、2位は「反乱に対する政権の報復」で20%。そして3位が「プリゴジン氏が事故をでっち上げ、実はまだ生きている」という生存説で、そう思う人が16%もいたというのである。

「つまり、いまだプリゴジン氏が生きていると考えている国民が一定数いて、プーチン氏としても、ロシア国内で続く同氏に対する英雄視ムードに、歯がゆい思いをしていることは間違いないでしょうね」(ロシア国内情勢に詳しいジャーナリスト)

 少なくない国民が「プリゴジン氏生存説」を信じる背景には、いくつか要因が上げられるようだが、その一つが不可解な葬儀だったという。前出のジャーナリストが解説する。

「先月29日、サンクトペテルブルク市内では葬儀が行われる墓地での混乱を警戒して、早朝から数百人の警察と治安部隊がセラフィモフスコエ墓地に配置されていました。ところが、墓地周辺ではまったく動きがなく、すると午後1時頃に突然、サンクトペテルブルクの別の場所でプリゴジン氏の『お別れ会』が催されるとの情報が流れ、現地メディアが駆けつけてみるとそこはもぬけの殻。結局、双方とも市民とマスコミの目をくらます陽動作戦だったのです」(同)

 その後、プリゴジン氏の広報がSNSに「エフゲニー・ビクトロビッチ(=プリゴジン)への別れは非公開形式で行われた。 別れを告げたい人は、ポロホフスコエ墓地を訪れることができる」とのメッセージをアップ。葬儀はセラフィモフスコエ墓地ではなく、市の東端にあるポロホフスコエ墓地で、秘密裏に行われていたことがわかった。

「なぜ、そこまでして葬儀を秘密裏に行わなければならなかったのかも謎ですが、さらに数日前には、飛行機が墜落したトベリ州クジェンキノ村の住民が『複数の村人が墜落の直前、パラシュートが2つ落ちてくるの目撃した』とメディアに証言したことで、生存説の信憑性が高まっているのです。とはいえ、いまだに生存説が出るのは、クレムリンがプリゴジン氏の棺や葬儀写真を一切公表せず、さらには事故についても政府内で調査すると決定したからでもある。つまり、クレムリンが隠そうとすればするほど、プリゴジン氏生存説をエスカレートさせているという皮肉な結果になっています」(同)

 はたしてプリゴジン氏は死亡したのか、あるいはパラシュートで難を逃れたのか…。

(灯倫太郎)

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