「あまりに理不尽」
と怒りを露わにしたのは、石川県の谷本正憲知事。現在、金沢まで延びている北陸新幹線をさらに敦賀まで延伸、23年春に開業するはずだったものがさらに1年半遅れるとの報告を受けて建設主体である国土交通省幹部などを前に言い放った言葉だ。
しかも、本来ならば2年遅れるところを何とか1年半にしたと国交省側が努力をアピール、「本当に申し訳ありませんでした」と深く陳謝しても、「納得がいかない」と収まらない。それもそうだ。それと同時にちゃっかり2880億円の事業費が余計にかかるというのだから。
「谷本知事は『追加負担には応じられない』との姿勢を示しましたが、背に腹は代えられないというのが実情じゃないでしょうか。というのも、地元では新幹線開通に向けて飲食店やホテルがもうできてしまっている。それが1年半遅れるとなれば死活問題にまで発展、尻に火が点いてしまっている状況ですから」(全国紙記者)
これでは開業延期に伴う持続化給付金でももらわない限りやっていけない。怒り心頭なのももっともな話だ。
この新幹線の「通る・通らない」問題が全国各地で噴出している。そこでもちろん頭に浮かぶのは、リニア中央新幹線のトンネル工事を巡る、静岡県とJR東海の大ゲンカだ。
リニアを通すための南アルプストンネルは山梨県と長野県では既に工事が始まっているのに静岡県だけは未だ未着手だ。なぜなら、静岡工区は静岡県を潤す大水源である大井川の水源に当たり、静岡県としては必要な水源が工事によって失われると危惧しているからだ。
JR東海としては湧水に影響を及ぼさない工事を行うとしているが、「矛盾がある・ない」で県と対立、そこで静岡県の川勝平太知事と金子慎・JR東海社長との直接会談が6月に設けられたのだが、却って両者の溝は深まり、ガチバトルが繰り返されていた。
すると9月になって、今度は地元紙「静岡新聞」もバトルに加わってさらに混迷を深めた。
「JR東海が外部に出さない約束で静岡県に貸与していた湧水に関する資料の一部がスクープ記事として掲載されたんです。静岡県が『静岡新聞』へのリークに関与したのは明らか。さらなる火種どころか爆弾を投下したようなものです。それ以来、今度は資料を一般に『公開しろ・しない』でモメるようになりました」(前出・全国紙記者)
16日には岐阜県知事と地元の首長らが連名で、JR東海に27年の開業を求める要望書を提出した。JR東海としては、静岡県の反対もあって事実上延期は止むなしと考えているにもかかわらずだ。だからこの動きにはネットでも、「自己中な行動」、「静岡県知事に要望にいった方が…」と揶揄される始末だ。
北陸新幹線延伸の延期は、九州・佐賀県にも飛び火した。
九州新幹線の西九州ルートは将来的には福岡市と長崎市を結ぶ予定だが、間の佐賀県がほぼ素通りになるため、新幹線の規格・在来線の取り扱い・地元負担金などを巡って佐賀県が渋ることで揉めていた。ここへ来ての延期の報に、佐賀県の山口祥義知事が、
「(佐賀県の負担は660億円となっているが)それで済まされるはずがないのは明確」
と対岸の火事では済まされないとの危機感を露わにしたのだ。
新幹線やリニアという大動脈は、夢や期待と同時に、アテが外れた地元民に怒りも運ぶものらしい。
(猫間滋)