かつては、大規模な窃盗密輸組織による高級外車や4WDの人気車種の盗難事件が相次いだ時期もあったが、警察の取り締まり強化により、その数は年々減少。自動車本体の盗難認知件数は、ここ10年で3分の1以下に低下している。
ところが、最近では車体ではなく、特定のパーツだけを盗む「部品狙い」が急増。特に「ナンバープレート」がその標的になっているのだという。
全国紙社会部記者が語る。
「理由はズバリ、犯罪目的です。現在販売されている多くの車には持ち主がキーを身に付けていれば、近づくだけでロックが解除されるスマートキーシステムが採用されています。しかし、そのスマートキーから電波を盗んで解錠する『リレーアタック』と呼ばれる窃盗被害が急増。ただ、盗む手口は単純ですが、今やナンバープレートを撮影する『Nシステム』や、監視カメラが日本中に設置されている時代。盗難車で走っていればすぐに追跡されてしまいます。そこで、彼らは盗難車のエンジンをかけてしばらく走ったところでフロントのナンバープレートを交換してしまうんです。というのも、残念ながらNシステムは前のナンバープレートしか写せず、そのため、警察が盗難車のナンバー情報で追いかけてもなかなか当該車両を特定できない。そして、その車を使って別の犯罪に手を染めるわけです」
なお、後ろのナンバープレートは封緘されているものの、前部ならプラスドライバー1本あれば、簡単に外すことができるため、犯罪者集団にとっては簡単に入手できる“逃走アイテム”というわけだ。
「さらに、こういった盗難車などのナンバープレートが海外に流出し、高値で販売されているから驚きます」と、その意外な行方について明かすのはモータージャーナリストだ。
「実はアメリカをはじめ、東南アジアには日本車のナンバープレートを販売するショップやサイトが少なくないんです。価格は1枚40ドル前後ですが、もちろん彼らがどんなルートでそういったナンバーを入手したのかは不明です。中には『字光式』と呼ばれる光るナンバープレートや赤い斜め線や赤枠が入った『仮ナンバー』、大使館車両が付ける『外ナンバー』まで扱う店もあり、高額で取引されているようです」
ここ数年、特に目立つのが「福島」「いわき」「宮城」といった東北ナンバーだという。
「おそらく、2011年の東日本大震災で津波被害を受けたクルマについていたナンバーだと推測されますが、通常、廃車にする車両は抹消登録されナンバープレートを返納するため、そのままの状態で出回ることはない。ただ、記念所蔵の制度があるため、不要になったプレートがほしい場合は直径4cmの穴を空けたうえで保管が認められます。しかし、盗難や災害などで所有者の手を離れた車両のプレートは、そこまで厳密な管理が及ばないというのが実情なんです」(前出・ジャーナリスト)
つまり、それらのナンバープレートが特殊なルートをたどり、海外に輸出され、それがショップやサイトなどで販売されているということなのか。
「外国人にとっても漢字とひらがな、さらに数字の組み合わせは、ある意味新鮮なのかもしれませんね。日本車専門のサイトのなかには、日本の12ヵ月点検ステッカーや、車検ステッカー、車庫証明ステッカーなどが、そこそこの高値で販売されたりしていますから。日本車マニアにとっては、ナンバープレートは垂涎の的なのかもしれません」(前出・ジャーナリスト)
ある日突然、愛車のナンバープレートが消えていたら……。犯罪者集団に悪用されるよりは、見知らぬ異国の地で日本車愛好家の手に渡ったほうが少しはマシかもしれない。
(灯倫太郎)