畳一枚分ほどの棚で育つ稲穂が、いま世界を驚かせている。兵庫県宍粟市のベンチャー企業「あゆち」が開発したコメの新品種「みずのゆめ稲」は、背丈15~20cmの超矮性・早生型で栽培期間は約2カ月。LED照明と独自の水耕液肥を組み合わせた完全室内栽培により、年6回の収穫を実証した。室内の気温・湿度・光量を厳密に制御し、無農薬・高密度栽培を可能とするシステムだ。長年「田んぼ」に依存してきたコメ作りの概念が大きく塗り替えられようとしている。
周知のように、従来の田んぼ栽培が抱える悩みは深刻だ。気候変動による収量の不安定化、農家の高齢化と後継者不足、耕作放棄地の増加など、課題が山積している。さらに、コメ価格の高騰や輸入依存の進行に伴い、食料安全保障への懸念も高まっている。
みずのゆめ稲は、こうした稲作におけるリスクから完全に切り離せる点が最大の魅力。天候や病害に左右されず、成長スピードと収量を自在にコントロールでき、高密度栽培により従来の田んぼ以上の収量が見込める。背丈が低いため倒伏の心配もなく収穫も容易だ。
ただ、課題もある。初期投資や電力コストを抑えるための施設設計、液肥や光環境の最適化、量産体制の整備等々。しかし、同社は自治体や企業、研究機関と連携し、次世代の主食インフラ実現に向けた実用化ステップを進めている。
無農薬、多段式、短期栽培を実現し、都市部のビル内や離島・山間地といった従来は稲作が難しかった場所にも導入できるため、自治体の地方創生や農家の新規事業にも活用が期待される。現状は実証段階だが、今後のコスト削減や量産体制の整備が進めば、食料自給率向上や地域活性化の一助となる可能性は十分にありそうだ。
(ケン高田)