トランプ政権による強硬な関税政策に追い詰められていた中国が、ついに“伝家の宝刀”ともいえるレアアース戦略を発動し、主導権を奪い返す展開となっている。
トランプ大統領は就任前から一貫して中国を敵視する姿勢を見せ、就任後も「習近平主席は賢明で優れた指導者」と言いつつも、米中会談の反応が芳しくないことにイライラ。対中関税を145%にまで引き上げる強硬策に打って出た。
しかし5月中旬には、米国が対中関税を145%→30%に、中国が対米関税を125%→10%に引き下たことで、「米中対立の緩和」として世界に一定の安心感が広がっていた。
しかし、6月初旬の米中電話会談において、習主席はトランプ大統領が期待していた“レアアース輸出規制の緩和”について明言を避け、事実上の拒否姿勢を貫いた。
これは、米国による対中圧力に対し、中国が“逆転の一手”を放ったことを意味する。世界経済への波及は必至だ。
レアアースは、電気自動車やハイブリッド車のモーターをはじめ、F35戦闘機や誘導ミサイルなど軍事産業にも欠かせない。
このレアアースを巡って、すでに米フォード・モーターは中西部シカゴ工場の一部車種の生産を停止。日本でもスズキが部品調達の難航により一部生産停止を余儀なくされた。
中国は世界のレアアース産出の約7割を占め、精錬加工に至って
今回中国が輸出規制の対象としたのは、イットリウム、テルビウムなど7種のレアアース。これらは特に中国の生産依存度が高く、磁石材料として不可欠なネオジム磁石にいたっては、世界の80%以上を中国が供給している。
結果として、トランプ政権が中国に圧力をかけ続けたものの、レアアース戦略により土壇場で主導権を握り返された格好だ。中国・習近平国家主席の“高笑い”が聞こえるような展開とも言える。
しかしこの“レアアース危機”が、日本にとってはむしろ“神風”となり得る側面もある。
思い起こされるのは2010年9月。尖閣諸島沖で日本が中国漁船を拿捕した際、当時の胡錦涛政権が報復措置としてレアアースの対日輸出を停止。これにより日本の製造業は大打撃を受けたが、その反動として、廃家電からのレアアース回収技術や使用量削減技術の開発が急速に進んだ。
現在では、日本の製造業は一定程度の対中依存脱却に成功しており、中国によるレアアース輸出規制にも耐性を持ちつつある。
一方、トランプ大統領は「日本は安全保障にただ乗りしている」「日本の非関税障壁は不公平だ」と繰り返し非難しているが、レアアースの供給が不安定化する中で、今後は日本の技術力や供給網に頼らざるを得ない局面も訪れるだろう。
米中対立の最前線で、静かに日本の存在感が増しつつある。
(団勇人・ジャーナリスト)