昨年8月、ロシアを拠点とするハッカー集団「ロックビット」のリーダー格の男が米司法省により詐欺共謀などの罪で米連邦地裁に起訴されたと発表され、大きな話題になった。
報道によれば「ロックビット」は、2019年9月~24年2月にかけ日米をはじめとした約120カ国の企業や個人をターゲットにサイバー攻撃。「情報を流出させたくなければ身代金を支払え」と要求し、総額約5億ドル、日本円にして約770億円もの金を奪い取っていたという。
実はロシアでは昨今、海外だけでなくロシア人に狙いを定めた特殊詐欺グループが急増。「警察官」や「銀行員」などを装ったいわゆる「オレオレ詐欺」から、AIを使って虚音声や映像で騙す「ディープフェイク詐欺」といった新しい手法での被害が続出しているというのだ。国際部記者の話。
「ウクライナ戦争勃発後、ロシアでは高齢者などを中心に『銀行口座から金が引き出されている』と電話をかけ預金を別口座に移動させ、その金を騙し取る詐欺が横行しています。犯人グループは地元の徴兵事務所を放火すれば詐取された金を戻せるとして被害者に条件を出し、実際、全国の徴兵事務所では5日間で計28件の放火事件が相次いだこともありました」
昔から、戦争になると必ず人々の不安や混乱に乗じて詐欺事件を起こす輩が増えるもの。その証拠にロシア中央銀行の統計によれば、ウクライナ侵攻が始まった22年の国内での特殊詐欺害額は141億6000万ルーブル(約223億円)。しかし、その額は毎年増え続け、24年には上半期だけで179億ルーブル(283億円)と突破。驚くほどの額で増え続けているというのだ。
「23年に行われたロシア国内における世論調査でも『過去1年間に詐欺と思われる事案に遭遇した』と回答した人はなんと国民全体の9割。そのため『詐欺』を『主な心配事の要因』と挙げる国民が大半で、プーチン大統領も昨年末の記者会見では特殊詐欺急増に言及し、『被害額がケタ外れに大きくなっている。聞きなれない声や不審な電話を受けた時は、通話をすぐ斬るべきだ。全ての国民にはそうしてもらいたい』と訴えています」(同)
徴兵事務所への放火続出の際には、ロシア内務省や検察当局が、背後に「ウクライナの電話詐欺師」がいると注意喚起を呼び掛けたものの、実際にいたかどうかは不明のまま。ただ、ウクライナ戦争で「今こそロシア社会と国民は一致団結すべきだ」と拳を掲げてきたプーチン氏としては、これ以上、国内での詐欺事件が横行すれば面目丸つぶれになることは必至。そんなこともあり、年末の会見でも「ウクライナの情報機関が国策として詐欺を行っている」として、なにがなんでも「主犯はウクライナ」と宣伝したいところなのだろうが、そう上手くはいかないようだ。
「ロシア政府は特殊詐欺撲滅策として昨年7月、銀行が顧客から送金依頼を受けた際、データベースで照会し、過去に問題があった場合、送金を保留にするという法律を施行。昨年末にはIP電話から固定や携帯電話への電話を禁止したり、発信元が不明な電話はブロックされるといったシステムも稼働させたと報じられています。とはいえ、騙すほうも手を変え品を変えで、終わりのないイタチごっこが続いているようです」(同)
そんな中、近年目立つのが、捜査当局者を装い「口座からウクライナへの違法送金が確認されたので刑事訴追を受ける可能性がある。そうならないためには、ここに金銭を振りこみなさい」というものだというが、専門家によれば、ロシアでは偽造したSIMカードが簡単に入手できるため、詐欺事件の横行は当面、収束しそうにないとされている。
ウクライナ主犯説を主張するプーチン氏だが、証拠もないまま国民の不安は募るばかりだ。
(灯倫太郎)