なぜ今?中国でカナダ人4人の死刑が執行された謎と矛盾

 2018年の中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者逮捕以降、冷え込んできたカナダと中国との関係が、さらに悪化する懸念が広がっている。

 この時、カナダ当局により逮捕・拘束された孟晩舟副会長は、ファーウェイの創業者である任正非氏の娘。任氏は同社創業前に中国軍に在籍し、現在も中国共産党の党員として活動している。同社製品をめぐっては、中国政府の情報収集に利用されるといった指摘もある中でのカナダ当局による孟氏逮捕劇だったわけだが、

「孟氏がカナダで逮捕された数日後、中国がカナダ人実業家と元外交官の2人をスパイ容疑で逮捕・起訴。実業家に対しては懲役11年の実刑判決の言い渡すなど、報復的措置に出たことで、カナダ国内では『これでは人質外交ではないか』との批判の声が上がり、両国の関係が一気に冷え切ってしてしまったというわけです」(国際部記者)

 さらに、孟氏のアメリカへの身柄引き渡しをめぐり、カナダとアメリカ間での意見が対立。最終的には孟氏が米司法省との司法取引に応じる形で、中国に拘束中のカナダ人2人が解放されたという遺恨を残す結果に終わった。

 そんなことから、カナダは昨年の中国製電気自動車に対する100%関税賦課に続き、鉄鋼・アルミニウムなどに対する追加関税賦課を発表。すると中国も、カナダ産農畜水産物に対する25~100%追加関税を賦課し始めるなどの報復合戦が続いている。

 そんな中、中国で今年になり、カナダ人4人が違法薬物関連の罪で死刑が執行されていた、とカナダ政府が発表した(3月19日)。カナダのジョリー外相によれば、執行された4人は全員、二重国籍者で、身元は伏せられているというのだが、

「カナダメディアの報道によると、カナダ政府は数カ月前から死刑執行について状況把握に努めており、トルドー前首相ら政府高官も加わり死刑執行取りやめに向け努力してきたようです。しかし、結局それが中国側に受け入れられることはなかった。中国では違法薬物や汚職、スパイなどの重大犯罪に対して死刑を科しており、その数は世界最多レベルだといいます。ただ、外国籍をもつ人に対する死刑執行は非常に稀で、なぜこのタイミングで死刑執行に踏み切ったのかについて、カナダ政府関係者からも疑問の声や憶測が広がっているようです」(同)

 中国外務省は、こういったカナダ側からの声を受け20日、「あくまでも法律にのっとって対応した」と強調。在カナダ中国大使館の広報担当者も「4人の犯罪に関して確実かつ十分な証拠がある」として、カナダ政府に対し、中国の司法権を尊重し無責任な発言をやめるよう求めている。

「今回死刑が執行された4人の具体的な身元は明らかにされていないものの、実は中国には2014年に200キロ超えの覚醒剤をオーストラリアに密輸しようとした容疑で、カナダ人の被告が逮捕・起訴されているんです。ところが不思議なことに、今回死刑が執行された4人の中に、この被告は含まれていないという。なぜ、このタイミングで同被告を外し、新たな4人の死刑に踏み切ったのか…。謎は深まるばかりです」(同)

 いずれにせよ、今回の死刑執行が中国とカナダとの今後の関係をさらに悪化せることは必至だろう。

(灯倫太郎)

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