福島第1原発の処理水放出を巡る中国の嫌がらせは、米紙ニューヨーク・タイムズも「中国のデマが怒りを増幅」と報じ、日本はもちろんのこと、太平洋を越えてアメリカまで呆れさせている。
中国側がとった日本産水産物の輸入停止措置では、日本は中国と香港に年約1600億円分を輸出していたのだから、水産関係者の損失は大きい。だが、アメリカも他人事ではなかった。対中国のビジネスで、アップルが桁違いの損失を被っているからだ。
「中国が政府機関職員のiPhoneの使用を禁止し、さらに系列機関や国営企業の職員にも使用禁止を拡大させる方針と報道されると、アップル株が2日連続で急落し時価総額で約28兆円が蒸発したのです」(経済ジャーナリスト)
9月13日(現地時間)に新製品発表会が控えている直前の7日のことだっただけに、アップルとしてはタイミングが悪い。
ただし、株価下落の理由は中国の規制だけではない。6日には欧州連合(EU)がデジタル市場法(DMA)により、アップルほか6社を独占的ITプラットフォーマーに指定すると発表していたからだ。中国での規制報道は、この流れにさらに拍車をかけたというわけだ。
中国政府のiPhone排除の背景には、もちろんファーウェイの存在がある。ファーウェイが8月30 日に最新スマホ「Mate 60 Pro」を発売したのだが、同製品は独自の5Gチップを搭載し、大量販売スマホとしては世界初となる衛星電話対応という高機能なものだったからだ。
「世界最大のスマホ市場である中国では、アップルの強さが際立っていました。23年1〜3月の第1四半期ではシェアトップの19.9%ですから、5台に1台はiPhoneが売れたことになります。ただ、ファーウェイは米政府の規制によりスマホ製造で大きなハンデを抱えながらもシェアを伸ばして健闘。そして今回の超高性能スマホの発売ですから、アップルが中国でシェアを落とすのはほぼ間違いないでしょう」(同)
そしてこのファーウェイの最新スマホが、米中の溝をさらに大きくしそうなのだ。
「Mate 60 Proには、アメリカが輸出規制をかけているために、中国側が手に入れることが出来ないはずの半導体技術が使われているというのです。アメリカのハイテク規制が失敗に終わったのか、それとも中国が独自開発に成功したのか。また成功したのなら、どうやって開発に漕ぎつけられたのか。現在、アメリカ側が調査しているところです」(ITライター)
ただ、調査結果のいかんに関わらず、新たな米中対立の火種になることは間違いなく、相手国製品の不買にまでエスカレートしかねない。あの国のことだから、処理水問題と同様の反応が起きかねないのだ。
(猫間滋)