日本中を沸かせた3月18日、19日の「ドジャーズ対カブス」の日本での開幕シリーズを終え、本拠地ロスへ帰路に就いた大谷翔平選手。来日時の記者会見では、「本当に楽しみにしていますし、まずこのシリーズをいいものにしたい。今は時差ボケを直すことに専念したい」と語っていたが、2戦目の5回1死で放った今季1号の「ムーンショット」を見る限り、十分な睡眠をとり時差ぼけに上手く対応したことが窺い知れる。
大谷がことのほか睡眠を大切にしていることはよく知られる話だが、実は近年、睡眠障害に加え、海外旅行から戻ってきたわけでもないのに時差ぼけに似た症状を訴える患者が急増しているという。
時差ぼけは、飛行機などで数時間以上時差がある地域間を短時間で移動した際に起こる不調のこと。通常、人間の身体は光や環境とうまく順応するよう体内時計がリズムを刻んでいる。だが、旅行や出張などによる長距離移動を短時間に移動すると、そのリズムに狂いが生じてしまう。結果、夜寝られなくなったり、逆に昼間なのに眠くてしょうがない、などの現象が生じることになるのだ。
では、それが日常生活で起こるのはなぜか。その原因とされるのが、ソーシャルジェットラグと言われる「社会的時差ぼけ」だとされている。
例えば、平日は毎日だいたい夜11時に寝て朝6時起きる、という人が「明日は休みだから」と午前1時に就寝、昼の12時まで寝ていたとする。当然、睡眠の中央時刻がずれる。これにより、「社会的時差ぼけ」という症状を引き起こす。それがソーシャルジェットラグというものだ。
3月14日の「世界睡眠デー」を記念し、株式会社ポケモンが同社の睡眠ゲームアプリ「ポケモンスリープ」の1700万人のユーザーデータをもとに、世界7カ国での睡眠に関する調査、結果を公開。そのテーマが、世界平均の入眠時刻および起床時刻、睡眠リズムの正確さと、ズバリ「平日と休日の入眠と起床時刻のずれを指す」ソーシャルジェットラグだった。
すると、同アプリによる日本の平均睡眠時間は平日7時間1分、休日7時間28分と判明、これは世界ワースト1位で、日本人は世界のなかでもっとも睡眠時間が短い国民だということがわかったのである。
ソーシャルジェットラグを測る指標には、入眠時刻と起床時刻の中央の時刻であるミッドスリープタイム(睡眠中央時刻)というものがあり、これを平日と休日とで比べる。つまり、平日と休日のミッドスリープタイムがずれていない状態が理想的で、もっとも快適な睡眠に導いてくれることになるのだ。
積もり積もった「睡眠負債」が脳に悪影響を与えることはよく知られる話だが、「ソーシャルジェットラグの状態が続き時差ぼけが継続すれば、物忘れが悪化する」という米カリフォルニア大学バークレー校心理学部による研究結果もある。
同研究チームよれば、時差ぼけにより脳の海馬における神経新生が減少するため、頻繁に長距離旅行や出張を繰り返す人には、反応時間の遅れや、糖尿病、心臓疾患、高血圧、がんといった成人病発生率が高く、さらに不妊になりやすいなどの症状が確認されているという。そのため、前述の場合は1時間の時差につき1日の休養日を設ける、また、夜勤が多い場合は昼夜逆転生活に対応するため部屋を真っ暗にして眠る。そして、休日前でも寝る時間を同じにして体内時計を狂わせないこと。それが最大の予防法だということだ。
(健康ライター・浅野祐一)