これぞアメリカンドリームやな。広島からポスティングシステムで大リーグ移籍を目指していた鈴木誠也が、カブスと5年約100億円の大型契約を結んだ。こんな条件に、日本球界が太刀打ちできるわけがない。半分の50億円を出すのも難しいやろ。昨年の広島での年俸が3億1000万円。残って契約更改していたら、よくて5億〜6億円というところ。そら、アメリカに行きたくなるわ。
広島にとってもおいしい話やで。約17億円の譲渡金がカブスから入ってくるんやから。
「誠也、メジャーで頑張ってこいよ」と喜んで送り出せる。一時はストライキで契約成立が危ぶまれていたから、球団関係者は内心、胸をなで下ろしてると思う。そのまま広島に残って今季を順調に過ごせば、FA権利を獲得していた。気が変わって、国内にFA移籍した場合、広島に入る金額は旧年俸の50%だけ。広島にとっても「どうせ出ていかれるならポスティングで」となるのも理解できる。
昨年の国内FAは、中日からソフトバンクに移籍した又吉だけやった。寂しい市場となったけど、超大物選手が出回ることは今後も少ないと思う。19年オフには筒香もポスティングでメジャーに移籍したように、FAを控えた選手を売りに出すというのが定番。国内FAで争奪戦になるのは、メジャーから声が掛からない選手や、補償のいらない年俸の安い選手だけ。一昔前は巨人、阪神、ソフトバンクがFAで主力選手を引き抜いていたけど、そういうチームづくりは難しい時代になった。
誠也がこれだけの大型契約を結べた背景には、同い年の大谷の活躍もある。日本人はイチローのようにスピードでは通用しても、パワーではしんどいと思われていたはず。日本で50本打った松井秀喜さえ31本が最高やったから。ところが、昨年の大谷は、投手との二刀流でホームラン王争いを演じる46本をマーク。「日本人でもホームランを打てるんやな」とメジャー関係者の認識が変わったと思う。
でも、次の日本人プレーヤーが高い契約をしてもらうには、誠也が物差しとなる。日本では6年連続で打率3割以上、20本以上の本塁打。外野の守備でも5度もゴールデングラブ賞を獲得している。あの肩はメジャーでも強肩の部類に入るし、足も遅くない。走攻守そろって、体格も全く見劣りしない。いつも言うように、3年やって一人前やけど、誠也はまさしく本物。メジャー独特の動く球と、速さについていけるかやけど、そのあたりの対応力も備えているはず。逆にこれで通用しなかったら、日本人打者全体の評価が下方修正されてしまう。西岡らの失敗で、いまだに日本人内野手に対する評価は低いままやから。
今回の誠也の夢のような契約に対して合格点といえる数字は、3割30本という数字を残せるかどうか。このラインをクリアすれば、ヤクルトの村上や、阪神の佐藤輝らも将来のメジャー予備軍として、MLB関係者の注目度も高まってくると思う。そうなると、日本のプロ野球の空洞化を心配する人もおるけど、僕はそうは考えない。次から次に若い選手が出てくるはずやから。頑張れば、誠也のように使い切れないぐらいの金をもらえるチャンスがあるんやから。
今年のメジャーリーグは、大谷とともに誠也の活躍も楽しみやで。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。