「死刑」は世界的な廃止ムードを受け、制度は存続するものの実際には執行されていない国が増えつつあるが、米国では現在もなお27州と連邦、軍隊を含め、29の立法行政司法単位で継続されている(2024年12月時点)。24年にもアラバマ州をはじめ、フロリダ、ジョージア、オクラホマ、テキサスなど計8州で死刑が執行された。
現在、米国で死刑執行に用いられるのは、薬品を投与する「注射」、高圧電流で感電させる「電気いす」、そして銃で狙撃する「銃殺」の3つだ。
「米国では、これまで薬物注射による死刑執行が主流だったのですが、医薬品会社が『死刑に使われる』というイメージを嫌い供給しなくなったことから、長年、使用されていた薬物の入手が困難になっていた。結果、混合薬物が代用品として使用されるようになったのですが、この薬が受刑者に激しい苦痛を与えるとして、人権団体から抗議の声が上がるなど、薬物を使った執行そのものを問題視する声が高まっているんです」(米国の事情に詳しいジャーナリスト)
米国内の人権団体によれば、過去、注射による執行は1054回。ところが、うち75回が失敗しており、なんと失敗の確率は7.12%と3つの執行方式のうち最も失敗確率が高いことがわかっている。ただ、電気椅子を用いている州は8州と少なく、銃殺刑もミシシッピー、オクラホマ、ユタ、サウスカロライナの4州のみで認めているのが現状だ。
そんな中、サウスカロライナ州に収監中の死刑囚が自らの意思で銃殺刑を選択したことを22日付けのAP通信などが報じ、大きな話題になっている。
報道によれば、この死刑囚は3月7日に死刑執行を控えたブラッド・シグモン受刑者、67歳。米国では1976年以降、銃殺により処刑された死刑囚は3人のみ。最後の銃殺刑は2010年なので、今回執行されれば15年ぶりになるとして注目がされているという。
「同死刑囚は2001年、元交際相手の家に侵入し両親を殺害。元交際相手を銃器で脅して拉致した容疑でサウスカロライナ州の刑務所に収監され、死刑宣告を受けたとされます。同州では、死刑囚に3種類の執行方法を選択させるのですが、男は弁護士を通じ、過去に同州で行われた毒劇物注射で針がうまく入らず、死刑囚が数十分にわたって地獄の苦しみを味わって死亡したことにふれ、『毒劇物注射は信用できないし、電気椅子は自分を燃やし生きたまま焼いてしまうもので、とても残忍だ。結果、残ったオプションは銃殺刑だけだった』と述べているそうです」(同)
銃殺刑というのは、3人の刑務所職員が実弾を搭載したライフル等で約15フィート(4.6メートル)の距離から発砲するというもので、過去の失敗率は0%だ。
「ただ、銃殺は米国では処刑方式の中でも最も暴力的との指摘もあり、米国近代史で銃殺刑を執行したのはユタ州だけ。そのユタ州でさえも、2004年には一度廃止され、廃止前に死刑判決を受けた受刑者の希望で2010年に1度、銃殺刑が執行されただけですからね。そのため、今回の死刑囚の要望をはたしてサウスカロライナ州が認めるかどうかは、今後の行方を待つしかないということになるでしょうね」(同)
死刑執行の日まで残りあとわずか。銃殺か、あるいは電気椅子か、薬物注射か。死刑囚の運命は…。
(灯倫太郎)