異例!中国当局が「男性1691人との性的関係」動画を撮影・流出させた女装男逮捕を晒したワケ

 当局により情報が統制されている中国では、国家にとって都合の悪いニュースはすべて検閲にひっかかり、決して公のメディアで流れることはない。ところがそんな中国で、女装した男が1000人を超える男性たちとの性的関係を盗撮した動画をSNS上に流出したとして逮捕されたとのニュースが報じられ、その意図を巡りさまざまな憶測が広がっている。

 ロイター通信などによれば、7月6日に中国江蘇省南京市の公安当局により逮捕されたのは「赤いおじさん(紅老頭)」と呼ばれる38歳の男。容疑者は女装して男性を自宅に誘い込み、性的関係を結ぶ様子を盗撮していたというのだが…。

「実は、男が逮捕される数か月前から、中国のSNS『微博(ウェイボー)』上で『赤いおじさん』なるハッシュタグが、2億回超えの人気検索ワードになっていたんです。SNS上では男の年齢は60歳で、性的関係を結んだ男性の数は驚くことに1691人。なかには100人の男性たちの顔写真を公開し、《この写真の中に婚約者や夫がいるかどうかをすぐに確認すべき!》といった投稿もあったようです」(国際部記者)

 しかし今回、公安当局が公表した男の年齢は60歳ではなく、38歳。また男が性的関係を結んだとする男性の数も、具体的な数字こそ挙げなかったものの、SNS上で表記されている数字は「事実ではない」と否定したというのだ。

 常識的に考えれば、年をごまかす際には年齢を若く言うもの。なぜ、男は38歳を60歳と偽って発信していたのか。また、当局はなぜ、性的関係を結んだ人数をあえて「事実ではない」と否定したのか。不可解なことが多すぎるこの報道に俄然注目が集まっているが、

「当局としても、SNSでトレンド入りするなど世論の関心度が高まったことで、鎮静化させる意味合いもあり、公表に踏み切ったとみられますが、そもそも中国の警察当局が性犯罪について公表するのは異例中の異例。中国では同性愛自体に違法性はなく、そのためこの事案は、あくまでも相手の同意なしに性的関係を撮影し流出させた疑いでの逮捕だということ。ただ、中国ではいまだLGBT権利活動に対する風当たりは強く、同性愛をテーマにとした同人誌の作者に懲役刑が下ったり、民主化運動やSNS上での反体制派の抑圧が続いていることも事実です。そして、中国共産党の中にはいまだ『子供を産むことができない同性婚は生産性がない』との旧態依然とした考え方が根強く残っているというわけなんです」(同)

 中国では1997年に同性愛が合法となり、2001年には精神障害から除外された。そして時を経た19年、中国の最高立法機関「全国人民代表大会」でも、同性婚合法化への議論が活発化されるようになった。

「19年時点で、中国における性的少数者を自認する人は7500万人と総人口の5%というデータもあり、共産党としてもさすがに見て見ぬふりをして済ますわけにはいかなかった。ただ、これは国民からの要請を受け立法化に向け検討していますよ、という表向きの姿勢を示しただけのこと。実際にはここ数年、国内におけるLGBT権利活動の範囲は相当狭まっているののが現状で、LGBT関連のトピックを扱うアカウントが突如削除されたり、大きなイベントも圧力で中止に追い込まれたり、前進するどころか後退の一途をたどっている状況です」(同)

 そのため、今回の事案を中国共産党があえて公表したのも、同性愛に対する見せしめ的な意味合いもあるのではないかとの声も大きい。いずれにせよ、情報統制されたこの国で、あえて流された異例のニュースに何らかの意図を感じざるをえない。

(灯倫太郎)

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