福島第一原発の処理水を巡っては「汚染水の垂れ流し」と文句をつけ、海産物の輸入を禁止。今年8月には長崎県沖の領空を空軍機で侵犯するなど、やりたい放題の中国。ところが、アメリカでのトランプ氏の大統領就任を前に、手のひらを返すかのごとく日本へ擦り寄る姿勢を見せている。
そんな中、12月25日に岩屋毅外相が中国側からの誘いを受け、訪問先の北京で李強首相、王毅共産党政治局員兼外相と会談。岩屋氏は中国側に対し、日本産水産物の早期輸入再開のほか、中国が沖縄県・与那国島南方の日本の排他的経済水域(EEZ)内に設置したとみられるブイの即時撤去などを要求。一方で中国人向けのビザ発給要件を大幅緩和するとして、日中の「戦略的互恵関係」推進を目指し、年明けには王氏訪日を調整する、との見解を示した。
とはいえ、安部昭恵夫人の仲介により石破茂首相がなんとか就任前のトランプ氏と会談できそうなタイミングでの訪中に、トランプ新政権側が警戒感を募らせたことは間違いない。
「岩屋氏は今年11月、ペルーのリマで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)閣僚会議でブリンケン米国務長官と会談していますが、面と向かって会話したのは表敬訪問に近い30分程度。一方で今回の訪中では3時間にわたり、にこやかに会談している。トランプ新政権側がその様子を見て、『相手が違うんじゃないか』と思うのも当然のこと」(政治部記者)
次期政権でトランプ氏は、国務長官に共和党のルビオ上院議員を指名。大統領上級顧問にはトランプ第1期政権で大統領補佐官を務めたナバロ氏、そして駐中国大使に共和党のパデュー元上院議員を充てるなど、重要ポストをすべて「対中強硬派」で固めている。となると、最重要の同盟国である日本としては、まずは米国を訪問するのが筋だと思うのだが…。
「中国としては、トランプ氏の就任前になんとしても『日米同盟』に楔を打ち込んでおきたいという思惑があるのでしょう。ただ、尖閣問題では相変わらず中国による威嚇・挑発が止まず、日本人児童刺殺事件に関する情報提供も一切無視されたままの状況。そんな中で、連携強化や日中ハイレベル経済対話が実現できるのか、甚だ疑問です」(同)
一方、政府与党内には、石破首相がトランプ氏と会談したところで成果が期待できるとは思えない、という声も大きい。であれば、中国寄りの岩屋氏を訪中させ、経済分野だけでも中国との関係修復を計っておきたいという狙いがあるのだろう。
「しかし岩屋氏を巡っては、日本のカジノを含むIR事業で中国企業が日本の国会議員に賄賂を配った問題で、そのうちの一人に同氏の名前があっていたことは、すでに報道されている通り。本人は否定していますが、この件で中国企業のCEOを起訴した米司法省は、詳細な事実関係を掴んでいるはずです。そんな状況の中、日本側が疑惑の人物を訪中させたことに、今後米国側がどんな反応を示すかどうか。日米同盟に亀裂が入る可能性や、トランプ氏の鉄槌とばかりに関税の上乗せに影響が出ることも否定できません」(同)
25日の会談で岩屋氏を「日本の経験豊かな政治家として、一貫して中日関係を重視していることに称賛の意を表したい」などと持ち上げまくっていた中国の王毅外相。習近平政権は石破政権を「対中穏健派」とみて、今後さらに日本をどう取り込んでいくかを画策していくはずだ。
トランプ氏張りのディールは無理にしても、石破政権が「飴」と「鞭」を使い分け、粘り強く中国と交渉しつつ、トランプ氏とも上手にやり合うことを願うばかり。
(灯倫太郎)