「トランプ政権は中国に屈服した」習近平が関税戦争に勝利した意味とは

 今年1月の就任直後から、中国に対する対決姿勢を強めてきた米トランプ大統領。2月には、フェンタニルなど薬物の流入を理由に、中国からの輸入品に対し10%の追加関税を課すことを発表。3月にはさらに10%の追加関税を発動した。

 中国側も黙っているはずはなく、アメリカから輸入される石炭やLNG、小麦、とうもろこしなどに15%、大豆や豚肉などに10%の追加関税を課す対抗措置に踏み切った。

 すると、4月にはトランプ氏が相互関税として34%上乗せ。それでも屈しない中国側に対し「さらに50%の追加関税を課す」とぶち上げ、結果、全部合わせる104%の追加関税を課す、というとんでもない事態に。

「それでも中国側は一歩も引かずの構えで、アメリカからの輸入品に84%の追加関税を課す措置を発動。最終的にはアメリカ側からは中国に145%、逆に中国側からは125%の追加関税を課す、という貿易摩擦が激化していったというわけです」(経済部記者)

 ところが、である。5月13日、閣僚協議を経た両国が突如、大幅な緊張緩和を発表したのだ。共同声明によれば、米国は中国製品に課す関税率を145%から30%に、中国は米国製品への関税率を10%にそれぞれ引き下げるとされ、期間はいずれも90日間。

「ただ、トランプ氏は90日後についても145%に戻ることはないとの見解を示しているので、最終的には中国が報復関税のかけ合いに勝利したといっていいでしょう。しかも、145%から30%という大幅引き下げは、中国側の予想をはるかに上回ったと伝えられていることから、習氏としては、してやったりといったところでしょうね」(同)

 共同声明を受け市場も安堵したのか、中国株が大幅に上昇したが、今回の米中報復関税騒動に、世界がただただ振り回されたことは間違いない。

「トランプ氏による関税率引き下げについて、米メディアの論調は、その多くが『トランプ政権が中国に屈服』と報じていますが、そもそもアメリカは中国最大の輸出相手国。なので、おそらくトランプ氏は習氏が直接交渉のテーブルに着くのを、今か今かと待っていたはずなんです。しかし、習氏はそんなトランプ氏を完全に無視し、電話会談の呼びかけにも答えず、何もなかったような顔で東南アジア訪問に出かけてしまった。結果、トランプ氏としても、これ以上ごねて経済摩擦をエスカレートさせるわけにはいかず、譲歩する形で中国側の要求を飲んだということでしょう。ただし今回、中国側が主導権を握って勝利したことは、今後の対米関係における交渉で大きな教訓となったことは間違いない。習氏は自信満々でほくそ笑んでいるはずです」(同)

 習主席が最後まで強気の姿勢を貫いた背景には、中国からアメリカには日用品をはじめ、パソコンなどの製品が大量に輸入されているため、145%の高関税が続けばアメリカ経済自体が成り立たなくなってしまう。だからこそ、おそらくトランプ氏のほうから、ある程度の段階で譲歩案を出してくるはず…。そんな習近平氏の読みがあったのではないか。

「それと同時に、トランプ氏が掲げた145%の高関税が予想を超える劇薬となり、市場を直撃。金融市場は一時大きく混乱し、株価が急落した。そこはトランプ氏の誤算だったのかもしれません」(同)

 ともあれ、さんざん大騒ぎをしたにもかかわらず、最終的には中国側の勝利で終わった報復関税騒動。ちなみに、最近、中国ではトランプ氏が「関税帝」と皮肉られているという。習主席の高笑いが聞こえるようだ。

(灯倫太郎)

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