4月初旬にぶち上げた「関税」をさらに引き上げると言ってみたり、逆に「発動に猶予期間を設ける」と言い出すなど、相変わらず株式市場を振り回し続けているトランプ米大統領。そんな「トランプ関税」について、世界的なベストセラー「21世紀の資本」の著者で仏経済学者のトマ・ピケティ氏が、「過去の米国の経済的な優位性を育んだのは関税でなく『教育』」と発言したことが話題になっている。
ピケティ氏はフランスの経済学者で、専門は経済的不平等。歴史比較の観点から緻密なデータをもとに、世界に広がる経済格差とその対策について説いた考察本である同著が、世界各国で驚異的売り上げを誇る大ベストセラーになった。
「21世紀の資本」では、現代資本主義における格差拡大のメカニズムが分析されているが、同氏の理論は、「資本収益率(r)が経済成長率(g)を上回る場合(r>g)、必然的に富の集中が進み、格差が拡大する」というもの。
「簡単に言うと、世の中は資産家とその他で形成され、資本を持っていれば勝ち。なければ負けで、富が公平に再分配されていないことが、貧困が社会や経済の不安定を引き起こしているという。そして、その格差を助長しているのがグローバル化だと。そのため世界じゅうで、『累進課税の富裕税』を導入し、資産の再分配をする。それこそが格差拡大に歯止めをかける大胆なアプローチになる、と指摘しています」(経済部記者)
ピケティ氏によれば従来、格差問題は経済成長によって解決すると思われていたが、実は資本主義を放置していたことが格差拡大の最大要因で、産業革命以来、欧米はアジアとアフリカに対し圧倒的な経済力を誇り、米国企業は史上最大の規模と利益を実現してきたが、それはアジアやアフリカなど、多くの犠牲の上に成り立っているのだというのである。
「トランプ氏の場合は、現行の貿易システムによりアメリカが『敗者』になった。だから内需によって国家を成り立たせるとして、関税を課すとしています。しかし、ピケティ氏によれば『本当の敗者』は米国でなく、アフリカや南米、南アジアといった地域にある最貧国。そして、過去の米国の経済的優位性を育んだのは関税などでなく、米国がこれまで培ってきた『教育』なのだと。つまり、教育の拡充こそが米経済再建のためには最重要課題である、と指摘しているんです」(同)
アメリカでは、2002年から、「21 世紀スキル協同事業(P21)」という、21世紀を生き抜くための教育フレームワークが多くの州で取り入れられ、そのうえで、近年言われているSTEM教育やSELといった教育が行われている。
「アメリカの教育は今だけでなく、未来の社会で生き抜くための本質的なスキルを身につけることが重視されていて、P21もその一つ。同事業設立時には、アメリカの連邦教育省が 150 万ドルを提供。アップルやシスコ、デル、マイクロソフトといった情報技術系企業が中心となり、教育界からも全米教育協会が参画し、文字通り、21世紀を生き抜くための教育が実践されています。つまり、教育に投資することこそが、将来のアメリカ経済を活性化させていく起爆剤になるということです」(同)
とはいえ、「関税」をよしとする共和党支持者が多数を占める中、トランプ氏としてもすぐに取りやめる気はないだろう。ただ、アメリカ国内でのインフレが加速すれば、当然「関税策」見直しも視野に入ってくるはず。さて、トランプ氏はピケティ氏の助言をどう聞くのだろうか。
(灯倫太郎)