米大統領選でバイデン大統領が後継候補にハリス副大統領を指名し、選挙戦の構図はトランプVSハリスとなったが、その行方を全世界の指導者たちが注視している。
そのような中、北朝鮮の金正恩総書記は行方を特に注視していることだろう。結果いかんで北朝鮮を取り巻く安全保障環境が大きく変わるからだ。
正恩氏としては、バイデン氏が選挙戦から撤退したことを面白くないと感じている。なぜなら、バイデン氏が選挙戦を継続することで、トランプ氏が勝利する確率が高まるからだ。バイデン政権の4年間、米国と北朝鮮の間では“冷戦”が続いてきた。バイデン政権は戦略的忍耐、すなわち北朝鮮が核やミサイルの問題で率先して改善を示さない限り交渉には応じないという姿勢に撤し、軍事的には対北朝鮮で韓国や日本との結束を強化してきた。また、対中国を最重要課題に位置付けるなか、一昨年2月にウクライナ戦争が勃発したことで対ロシアにも時間を割くことになり、北朝鮮問題はさらに後回しとなった。こういった状況に正恩氏は不満を募らせ、ミサイルの開発や発射を繰り返し、ロシアとの関係強化に努めるなど、朝鮮半島情勢では不穏な空気が強く漂ってきた。
正恩氏としては、米国からの体制保証を確約したいのだが、バイデン政権ではそれが不可能なことから、トランプ氏の再選を強く望んでいる。トランプ政権1期目の4年間で、両氏はベトナム、シンガポール、そして板門店と3度も対面で会談し、米国と北朝鮮の間ではデタント(雪解け)が生じるようになった。最近、トランプ氏は「私が大統領に戻れば正恩氏とうまくやるし、彼も私の復帰を望んでいる」などと主張しており、トランプ再選となれば米国と北朝鮮の緊張は再び緩和される可能性が高い。
一方、ハリス氏が勝利すればバイデン政権と同じ路線を継承することになるので、金正恩氏はそれを冷ややかな目で眺め、ロシアとの関係をいっそう強化することだろう。
(北島豊)