【北朝鮮】金正恩が製作指導の映画、上映中止⇒鑑賞者処分⇒突如テレビ放映の謎

 北朝鮮の朝鮮中央テレビが年明け2日、3日の両日、金正恩総書記が台本執筆や演技指導を手がけたとされる映画「72時間」を朝鮮中央テレビで放送していたことが8日、明らかになった。

 同映画は前後編で計約4時間にわたる超大作。正恩氏らが製作に加わっていることから、プロパガンダ映画であることは間違いないのだが…。

「1950年の朝鮮戦争初期の北朝鮮軍による『ソウル解放』を描いたもの。米国と韓国が戦争を先に仕掛けたという、あくまでも北朝鮮側の歴史観に基づいた設定で、北朝鮮が戦争を優位に進めた様子が描かれています。ただ、この映画は従来の武勇伝ばかりを誇張した北朝鮮特有のプロパガンダとは若干異なり、軍指揮官らの反省点を浮き彫りにしたり、若い男女の恋心を描いたシーンを盛り込むなど、北朝鮮映画の中では異色作です」(北朝鮮ウオッチャー)

 この作品、昨年2月から北朝鮮内の映画館で公開され、その際は劇場に長蛇の列ができるほどの人気だったとされる。ところが6月、突如上映禁止になった経緯がある。

「理由については明らかになっていませんが、当時の一部報道によれば、この作品は中国で製作された朝鮮戦争の一つである長津湖(チャンジンホ)の戦いを描いた映画『1950 鋼の第7中隊』を観た正恩氏が『こういう映画を作れ!』と、プロパガンダ部門に命じて作らせたもの。発案した正恩氏自身、相当な思い入れがあり、頻繁に現場を訪れてはストーリーを手直ししたり、俳優に演技指導までした、とも伝えられています。結果、映画は2年の歳月を経て完成。しかし米国から奇襲攻撃を受けたという設定にもかかわらず、戦闘シーンがほとんどないことから正恩氏が激怒し、鶴の一声で上映禁止が決まったという話です」(同)

 SNSなどに娯楽情報がアップされない北朝鮮では、いまだ大きな力を持っているのが口コミ。この映画についても皆、大ヒットしたことは耳にしているものの突然観れなくなったため、肝心な内容がわからない。となると、どうしても観たくなるのが人間の性で、ついには海賊版まで出回るようになってしまった。

「結局、正恩氏が製作指導した自国映画であるにもかかわらず、鑑賞したら処罰される韓国映画並みに、鑑賞や販売が厳しく取り締まられることになったんです」(同)

 一部報道によれば、「72時間」を観たとして処分された市民の数は、すでに数百人にのぼると言われ、その数は増え続ける一方だったという。

「上映禁止が決まったのは昨年6月なので、今回のテレビ放送はちょうど半年を経て、ということになりますが、当局が抑えきれなくなったのか、あるいは内容や映像になんらかの手を加えたのか。一部情報では、正恩氏はこの映画のために、1000万ドル(約11億5000万円)という莫大な制作資金を提供しているとの噂もありますが、まさか正恩氏発案の自国映画が原因で、市民が処罰対象になるとは…。なんとも皮肉な話です」(同)

 1月8日で41歳になったとされる正恩氏。今年は朝鮮労働党創建80年に加え、武器開発5カ年計画を完遂させる年だと言われるが、映画同様、今年も北朝鮮国民が同氏の独裁ぶりに翻弄される年になるのだろうか。

(灯倫太郎)

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