【北朝鮮】金正恩が上から目線でロシア同盟国・ベラルーシに突如牙を剥いた背景

 ベラルーシのルイジェンコフ外相が北朝鮮を訪れ、同国のチェ・ソニ外相と会談したのは昨年7月のこと。ウクライナ情勢などを念頭に国際情勢について意見交換し、ロシアの同盟国として互いにアメリカに対抗していく姿勢を示した。ベラルーシ外務省によれば、この会談ではベラルーシからの食料の輸入などについても話し合われ、さらに両国間での医療や教育など幅広い分野で関係強化していくことで意見が一致したという。

 ベラルーシが北朝鮮と国交を樹立したのは1992年。だが、ベラルーシの外相が北朝鮮を訪問するのは初めてで、むろんその背景にはロシアのプーチン大統領と金正恩総書記による首脳会談により、新たな条約の締結があったことは言うまでもない。

 ところが、ベラルーシ外相の訪朝から半年が経過したいま、両国の間に微妙な空気が流れ始めているというのだ。北朝鮮ウオッチャーが語る。

「1月20日、正恩氏の妹・金与正党副部長が、ベラルーシ国営通信が報じたある報道について『私の知るところでは、そんな事実はない!』と全面否定する談話を発表したんです。しかも、その強気な物言いはロシアの同盟国に対する言葉としてはかなり厳しいもので、あるいは両国の間に溝を作るのではないかとの声が出始めています」

 ベラルーシ公営通信が伝えたのは、同国のルカシェンコ大統領が自国で2025年の対外貿易問題に関する会議を開催するため、パキスタンやインドネシア、北朝鮮など5か国に対し首脳会議参加を提案したという内容だったが、与正氏はこれを全面否定。続けてこう語っている。

「我々との協力的な関係発展を希望するならば、自分の意思を正確に明らかにするのが重要である。このような事実いかんと率直さは2国間関係からの出発点でなくてはならないと思う」

 つまり、ベラルーシ側から北朝鮮に対して首脳会議の要請などなく、仮に参加を提案するのであれば、まずはベラルーシとの2国間での首脳会談が先決で、それなくして5か国による首脳会議参加などありえない、というわけである。

「与正氏は談話の中で『我々はベラルーシ側がこのような立場から発して我々との友好的かつ協力的な関係発展を志向するならば、拒む理由がなく、喜んで歓迎するであろう』としているものの、聞きようによっては、まずはルカシェンコ大統領が訪朝して正恩氏に挨拶するのが筋、と完全に上から目線の内容に取れる。もともと北朝鮮の首脳外交は1対1が基本で、北朝鮮トップが多国間首脳会議に出席したのは、1965年開催のバンドン会議一度だけ。一昨年、ルカシェンコ氏が提案したロシアを含めた『3か国協力』要請も北朝鮮側は対応しなかった。そんな状況のなか、ベラルーシ公営通信が一方的に報じたことで正恩氏の怒りに触れ、スポークスマンである与正氏に全面否定させた、といったところでしょう。北朝鮮は何よりも面子にこだわる国。このボタンのかけ違えが両国間における大きな溝を作る可能性も考えられますね」(同)

 2016年まで国連安保理の制裁決議を遵守してきたベラルーシは、北朝鮮との距離を置くため同国の大使館設置を認めていなかった。しかし、親分であるロシアと北朝鮮とが親密な関係になったことで、昨年4月にはベラルーシの外務次官が訪朝。その後、7月のルイジェンコフ外相による平壌訪問が実現したというわけだ。つまり、ベラルーシが北朝鮮にすり寄らざるを得ない背景にはロシアの存在があればこと。

 ベラルーシでは26日、大統領選が実施され、7選を果たしたルカシェンコ氏だが、今回の与正氏の談話をどう聞くか。

(灯倫太郎)

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